HShinkai: shohyo

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Essays on Japanese Books (not physics)
1996.7.2　
科学書評「転回の時代に」池内了著，岩波書店，1000円
　岩波の月刊誌『科学』に連載されていた，宇宙物理学者池内教授の初エッセイ集である．まとめて読むと一貫とした主張があったことが解る．しかも『来世紀に向けての科学のあるべき姿を探る』と帯にあるように，ひとつの科学哲学を提案しようとする色彩が強い．
　著者の言う「転回の時代」とは，デカルト主義的な発展を行ってきた科学あるいは科学的思考に対する物心二元論，還元主義に対する終焉であり，（人類は地球環境をすでに環境として考える以上の存在になったし，科学の扱う対象も複雑系を含むようになりすべてが単純な理論に還元できるわけではない），アメリカの加速器 SSCの建設中止に見られるような巨大科学の政治や文化との絡み合いである．カオスやフラクタルが，これからの物理の主役を担うだろう例として，しつこいほど既存物理学との対極に担ぎ出されている．
　著者の主張に賛同するしないは別として，随所に散らばる著者の言葉はこの業界の人間の琴線にひびく．大学教養課程に対しては『教養の物理で，質点の力学を学んだ後の，剛体あるいは多体系の力学の味気なさ』と鋭く，異端の科学に対しては『つい若者の独断を批判したくなるのだが，論理がきちんと通っていたらそれを励ましてやる度量が必要』と鷹揚，オウム教事件に関しては『科学者は，何かが詰まった箱の鍵を開ける錠前職人に似ている』と少し自己批判，文部省の大学改革に対しては『科学は人間が創った一つの文化の一つの部門であるが，研究という個人的でありながら普遍性をもつ行為の積み重ねであることを強烈に意識する必要がある』と「手作り」と「スクール」の融合を強く求めている．最後に登場する寺田寅彦の言葉を出すまでもなく，本書を通して語られるのは，科学あるいは科学者が持つべき，現代に即した「良い意味での合理性」とは何か，という問いかけである．
　自らの研究を平易な言葉で語れないような研究者には，是非読んでもらい，研究することの社会的な意義を問いただしてもらいたい．来年度の大学入試問題で，小論文の題材としてとりあげる大学も多いことだろう．
（砧公園NewsLetter No29）

1996.5.22　
書評「僕はこんな本を読んできた　立花隆式読書論，読書術，書斎論」　　　立花隆著，文藝春秋社，1500円
書評「脳を究める　脳研究最前線」立花隆著，朝日新聞社，2000円
書評「インターネット探検」立花隆著，講談社，1500円
　かつて，田中金脈の追及や宇宙飛行士のレポート・脳死の研究で目を離せなかった立花が，最近また連続ヒットを飛ばしている．『こんな本を読んできた』は，自らの読書遍歴を披露したもの．「ある分野の専門家になるのであれば，惜しまず始めに数万円はたいて十数冊の本を買え」，で始まる立花の読書論に共鳴する積ん読読者も多かろう．如何に自分が本を読むための人生を送っているか，これだけとうとうと説かれると「あんたは偉い．人類の限界に挑戦して欲しい．」と激励したい気分になる．自らの秘書を公募で選んだ顛末記はほとんどもう自己陶酔の世界，もう一度激励したくなる．しかし，こなれた文章を読み進むうちに読者は，彼流のポリシーを感じ，洗脳され，彼が現在手がけている『脳研究』や『インターネット』あるいは『武満徹』（未刊）の購入に奔走することになる（少なくとも私はそうだ）．
　『インターネット』は，今話題のコンピュータネットワークによる情報公開システムに初めて触れた彼が「これは第３の産業革命である」ことを力説詳解した著．カラーページもたくさんあってちょっとしたインターネット体験もできる．オリジナルな視点があるのは評価できるが，結局は立ち後れた日本をアメリカと比較して自己嫌悪するおきまりの（日本人受けする）パターンで終わってしまった．『脳研究レポート』は，最先端の研究者にインタピューしてまとめたもの．研究者とは，馬鹿な質問に対しては適当な答えであしらう人種であるが，彼が専門的なことまで非常によく調べた上で取材していることにはいつもながら感心する．『脳研究レポート』を読んだ後，私は全く別の観点から人間の脳コンピュータを論じた『皇帝の新しい心』（ロジャー=ペンローズ著/ 林一訳，みすず書房，5800円）をじっくりと読みたくなった．この間，ついに古本屋でこの本を納得できる値段で手に入れた．近いうちにレポートしよう．
（砧公園NewsLetter No26）

1996.4.29　
書評「神々の指紋」グラハム=ハンコック著/大地舜訳，翔泳社，上下各1500円
「15世紀に描かれた古地図の中に今世紀になってから測量されて初めてわかった南極大陸の地図が詳細に描かれていた．南極大陸が氷に閉ざされる以前に人類がこの大陸を調査していたとすると，それは紀元前1万3000年から紀元前4000年の間，ということになる」---こんなショッキングな冒頭から，著者は読者を捕らえて離さない．著者は南米に飛び，メキシコやエジプトの古代文明を克明に調査し，我々が知っている有史以前に，現在よりも高度な文明を持った人類(?)の存在を次から次へと挙げてゆく．その語り方は科学的で冷静であり，論理立てており，あらゆる反論の余地をほとんど残さない．まるで見事な推理小説を読んだかのように，歴史の専門家でない大多数の読者は，おそらく，著者の思考を辿るうちに，著者の言うまま，紀元前12000年頃に地球の極ジャンプによる地殻変動で亡びた文明の存在を確信することになるだろう．その文明の跡が何故いままで明らかにされなかったのか，それも本書の最後で説明されている．彼らの残した「神々の指紋」は，現代技術でもってしても再構築が困難なピラミッドとなり，ナスカの地上絵となり，地殻変動は世界各地に伝承されるノアの方舟伝説となって我々に語りかけてくるように感じるのである．
　このような本を手にして，世の中の歴史専門家はどう反応するだろうか．最近よくある似非科学を断罪するがごとく，反論・例証を試みるかもしれない．しかし，少ない仮定で，これだけ多くの歴史的矛盾が解決できるのならば，肯定的に真剣に考え直す余地も多分にありそうである．少なくとも科学的な思考からはそう結論される．
　ところで著者は，十数年後に再び極ジャンプが訪れて，人類の繁栄も終わると予言しているが，これは根拠不十分で蛇足であった．
（砧公園NewsLetter No25）

1995.11.3　
書評「あなたも狙え！ノーベル賞」石田寅夫，化学同人2060円
　帯には「若い研究者に贈るノーベル賞教本　ノーベル賞のとり方そっと教えます」と銘打ってある．しかし，中身は期待したほど実践的でなく，ノーベル賞受賞者（それも科学賞）のうちから99人を選んで，分子生物学者の著者が個人的な思い出と伝記を調べて見つけた少しのエピソードを綴った本だ．はじめの2ページこそ，具体的な受賞への近道として，1)スウェーデンのカロリンスカ研究所に留学 2)アメリカ科学アカデミー協会会員の引退しかかった学者に論文を送り，3) 秘密パーティにもぐり込んで他分野の既受賞者に自分の業績を売り込み，4)ヨーロッパ各国の王宮主催の行事に積極的に参加すること，などど描かれているが，論調はいきなり，学問に王道なしと流れが変わることになる．
　「親の進んだ道を忠実に発展させた」学者，「予想外の研究を強制させられた」学者，「棚からぼたもち」学者･･･などど一人づつ一言でまとめてゆき，最後にはセレンディピティ（serendipity；ものをうまく見つけ出す能力，掘り出し上手)の能力が一番大事であると結論づける．あたりまえである．そうでなければ，科学に飛躍はなく，飛び抜けた業績というものは生まれないのだ．
　随所に自分とノーベル賞受賞者の出会いが描かれていてハナにつく．しかも，そうするために，学者の選択も網羅的でなくなってしまった．ノーベル科学賞の中には物理学賞・化学賞・生理学医学賞の3賞があるが，物理学賞受賞者についは12名しか記述がなく，しかも最近に関しては1973年受賞の江崎玲於奈氏以降は皆無である．せっかくの好題材と思えるのに残念なことだ．値段も高い．随所に挿入された肖像画も下手で興ざめである．
　しかし，ノーベル賞は運良くもらうものと考える日本人とは違って，努力すればもらえるものと受賞ゲームに参加する西欧人の立場は正しいのかもしれない．年功序列の文化勲章よりはずっと授賞式の感激が大きいのだろう．
（砧公園NewsLetter No14）

1995.11.3
　書評「顔辞典」山藤章二，朝日新聞社1300円
　我が家には変な本が多い．辞書辞典コーナーには，およそ他の家庭にはなさそうなものが事典として誇らしげに飾られている．『逆引き広辞苑』を筆頭に英語中国語ロシア語ドイツ語イタリア語スペイン語などの語学系の他，法律哲学四字熟語冠婚葬祭などのハウトゥーもの，国語便覧や色彩事典・歴史散歩事典，ハイキングコース一覧からカクテルレシピやチーズ図鑑・アイドル図鑑・ヘアヌードカタログなんてものまである．いずれも正確な情報を読者に伝えるための必要性に迫られて常備しているもの，と断言できればいいのだが，やはり個人の趣味，本の所有欲には勝てず買い込んでしまうのが原因だ．英語図鑑の体裁を取る『ワーズワード』（同朋舎出版）は見ているだけで楽しいし，『The Sesami Street Dictionary』は説明文の方が難しいのがまた笑える．『今さらこんなこと他人には聞けない辞典』（KKベストセラーズ）で知ったかぶりをするのもたまにはいい．
　そのコーナーにもう一冊本書が加わった．20年にわたって朝日新聞に随時掲載された政治家や文化人の似顔絵集である．顔ばかり1300人分を五十音順に並べたものだ．値段も1300円で割り切れる．こんな本を買って帰って妻に何て言われるかと内心ひやひやしていたが，「わーおもしろそー」と一言言われてホッとした．こいつと結婚してよかった，と思う瞬間である．
　ぜんぜん書評ではなくなってしまった．
（砧公園NewsLetter No14）

1995.10.15　
書評「ベストセラーの戦後史1」井上ひさし，文藝春秋社 1300円
　この本も企画力が勝利の一端を担っているのであろう．終戦直後から毎年一冊づつベストセラーとなった本を巡ってのエッセイである．『日米会話手帳』(昭和20年)，『完全なる結婚』(昭和21年)，・・・とつづき，1巻では『性生活の知恵』(昭和35年)，『英語に強くなる本』(昭和36年)まで収録されている．
　読者の中には当時を懐かしむ御仁も居られよう．本書は同時代を生きる井上ひさしの青春時代からの軌跡も知れてまた面白い．当時を知らぬ書評子にとっては，当時の世相を疑似体験するよい機会にもなった．永井荷風が戦時中隠れてせっせと小説を書いていたこと，伊藤整が昭和28年にブームを起こしたこと，アンネフランクの日記が『光ほのかに』として出版されていたこと，さらには残飯闘争や皇太子の履修単位不足事件など，私は全く知らなかった．
　『広辞苑』の項では初めてそれを手にした井上が「頁風を立てるたびに2320の全頁から立ちのぼってくるのは，われわれは日本語を使って生きる民族であるという誇りと覚悟であった」と書くあたり，彼の言葉に対する愛着が伺い知れる．惜しむらくは，テレビ放送開始直前が「活字天下の最後の黄金期」であったことに対して，作家としての個人的見解がもっとあってもよかった．
　ベストセラーの6条件（パターン）も提案されている．ちなみに「1)セックスもの，2)真相はこうだ，もの，3)愛と死もの，4)人生論もの，5)実用書もの，6) 占い，予言もの．」だそうである．
（砧公園NewsLetter No13）

1995.10.1
書評「世紀の号外！歴史新聞」歴史新聞編纂委員会編，日本文芸社1300円
　この本は編集部一行が日本へ帰国したとき，恵美子記者から「最近の新聞記事です．これを読んで早く現代に復帰してください」と，薦められたものである．この本を一目見た我々はすぐさま「やられたっ」と絶句した．恵美子記者の冗句もさることながら，この奇抜な本の企画力に脱帽したからでもあった．
　人類誕生から19世紀終わりまでの日本史・世界史をあわせて，各年代ごとに新聞形式にして見開きにまとめる，というアイデアは，はっきり言って私の歴史観に一撃を与えた．どうしても歴史を習うときには，過去から現在まで時間の進む順に知識が詰め込まれ，えてして空間的なつながりを忘れがちになる．ところが，このように同時代を一覧できると意外な発見が続々と現われる．たとえば，中国（三国時代）で赤壁の戦いが起こった頃ローマではカラカラ浴場がつくられた，とか，将軍吉宗が享保の改革をしているときにフランスではルイ14世が死にイギリスでは「ロビンソン・クルーソー」がベストセラーになっているとか，・・・．
知識としてそれらの年代は覚えていてもすぐには対応しないもの．だがこの本では，それらが一時代に組み直され，しかも記事の扱いに強弱が付き，文化のニュースや解説・写真付きと親切この上ない．たとえばカラカラ浴場の記事では現在の崩れた浴場跡の写真を掲載して「建設中のカラカラ浴場」とルビをふるユーモアさから察せられるように，随所に漫画あり，「天災人語」あり，広告あり，スクープ記事あり・・・読んでて飽きず，肩も凝らず，痛快である．
　こんな本が受験勉強時代にあったら，さぞかし楽しかっただろうな．
（砧公園NewsLetter No12）

1995.6.1 書評「課長島耕作」弘兼憲史，講談社漫画文庫（全17巻，各470円）
　虚構(フィクション)を読まなくなって久しい．興味を持てなくなったのは高校生のときだった．作者の意図を完璧に汲み取るという意気込みが裏目に出て，作品中の見せ場の考証や伏線の張り方・作品と作者の位置関係など本来のルール外の枝葉末節にこだわる癖がついてしまい，素直にフィクションで遊べない人間になってしまったのだ．とにかくどの小説を読んでもハナにつくのである．司馬遼太郎の歴史小説を読んでも「この場面はつくったな」と疑ってしまうし，受験勉強お決まりの漱石を読んでも「この時期の漱石ならかくありなん」と分析をしてしまう始末．おまけに自分の書く文章も技巧を凝らして凝らして凝らし尽くす．もう少し自分に文才があったなら，ウンベルトエーコ「薔薇の名前」もどきの歴史に残る大ベストセラーを書いて，YMOの坂本龍一よろしく「一億人を喜ばすのはこの程度で十分」と言い放っていたかもしれない（これは言いすぎか）．
　こんな私が今回書評するのは，虚構の極北，現代サラリーマンの夢物語，初芝電産販売助成部の元課長現部長の島耕作氏の物語だ．一言で言って「いやぁ，よくできてる」．脱帽である．左遷させられたかと思えば社長降板劇を牛耳り，出てくる美人女性にことごとくもててしまう島の人格は，羨ましいを通り越してごちそうさまの気分である．現実にありそうなことをうまく虚構に昇華して，男の夢を具現化している．あるいはその後，FAXでのセクハラ告訴事件が現実化したことなどを考えると，弘兼の先見性は恐ろしいほどである（ま，大衆が追随したにすぎないのかもしれないけど）．確固たるポリシーを持つようでいて実は持っていない主人公は「存在の耐えられない軽さ」の女優ビノシュのごとく，女性の質を厳選する所は映画監督デビットリンチのごとくである．各登場人物が柴門ふみが描くほどシリアスな結末を下されないのも，夫弘兼の優しさの表れか．各エピソードが「必然」の連続でつながっているのも驚きで，妙な安堵と現実感を与えてくれる．この意味でこの作品は，紫式部に対する男からの返歌とも受け取れよう．
（砧公園NewsLetter No6）

1995.5.15　書評(新聞評)　朝日新聞社説「国際協力と憲法」(5月3日朝刊)
　朝日新聞は憲法記念の日に5年間の社内討議の結果として提言の形で6項目の提案を行った．骨子をまとめると，憲法第九条は改憲せず，自衛隊は自衛のための規模にまで縮小し，国際協力法を制定・国際協力庁を新設・平和協力隊を組織してPKO等に積極参加，国連でも独自の論理を以て支出金額に見合う新しい意見団体を組織せよ，となろう．すべて理想主義を貫く形での提言であり，その後の論説で大学教授や行政担当経験者から現実とのギャップが大きいとの批判も多く見受けられた．ここではまず，内容はさておき，一新聞社が日本の将来を真剣に考えて一つの大きなビジョンを示したことを評価したい．日本の新聞は日経と赤旗・砧公園NLを除いてすべて不偏不党の記事を掲載しているが，新聞本来の役割が報道とオピニオン形成の2点であることを考えれば他紙は片手落ちと言わざるを得ない．朝日としても，数年前の憲法記念の日に，単に憲法全文を掲載したのに比べれば，より積極的・攻撃的な転換であり，主張を持った新聞への転身と言えよう．ここではその内容について詳細を吟味することは避けるが，元来楽観主義的な評者としては，理想主義大歓迎であり，提言の形でこのような議論を我々にふりかけた朝日の立場を支持したい．今後朝日は，この提言を実現するに当たってどこまで責任を持って行動するかが問われよう．それにしても，その後の新聞紙上で立法当事者や行政担当者からの反応が皆無なのが惜しまれる．
（砧公園NewsLetter No5）

1995.5.1　書評「知の論理」小林康夫・船曳建夫編，東京大学出版会　1545円
　昨年ベストセラーになった「知の技法」の続編である．もともと東大の教養課程の学生向けのテキストとして作られたものであるが，身近な題材を取り上げてそれをpedanticに論証する構成が一般の知的読者を刺激し話題を呼んだ．日本ではときどきこのような難解な本がブームになる．浅田彰の「構造と力」しかり，ホーキングの「宇宙を語る」しかりである．はたしてどれだけの読者がこれらの本を理解し内容を咀嚼した上でエッセンスを享受できたであろうか．今回の本書の売れゆきにより，この種の本に対する読者の側の成熟度が判定されよう．
　私はソシュールとクレーを比較した意味論(石田英敬)に惹かれて本書を購入した．一見無関係に思える記号論の創始者と画家との対比は，その題材の勝利と言えるが，幅を広げるならドビュシーの実験和音や，最近電子メールで出会う表情を示す記号(^^;とか(^_^)とか(*_モ)にまで話題を広げ得たとも思われる．精神分析とファンタスの論理(石光泰夫)は吉田戦車のマンガを深読みしているが，確信犯的なところが好感が持てる．20世紀の思想家の一人として吉田を取り上げた英断を評したい．
　本書にはそのほか２０名を越える執筆者が論理展開のサンプルを与えることを目的として，多岐にわたる題材を提供している．心配なのは，受験勉強に慣れている学生が書かれていることをそのまま鵜呑みにしてしまうことではないだろうか．重要なのは他人の文章を批判的に読む姿勢であることをもっと全面に出してもよかったと思われる．とりあえず，東大教養部頑張った，との印象を受ける本であった．
　思うに，サイエンスについてもこの種の啓蒙書があってもよいのではないか．（もっとも，「知の技法」の二番煎じをねらって東大教養学部の物理実験テキストが本屋から大量に注文されたそうだが，後に返本されてきたという話もある[日本物理学会誌]．）にせ科学者による「相対論は間違っていた」というような本が堂々と平積みされている現状を見直すには，やはり一般人の啓蒙が必要と思うからである．
（砧公園NewsLetter No4）

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Last Updated: February 16, 2000 /Updated: December 27, 1996