Ben Kuroki : Research Report No. 3

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ベンクロキ研究レポート　第3回

『ネブラスカから来た男--ベンクロキの物語』第1部　第3章　

ベンクロキ研究班　真貝寿明
　 [ネブラスカから来た男　第3章] ------------------------- -----
　翌朝もよい天気になった．大きくて強い陽射しがさす気持ちの良い日で，彼はダウンタウンに歩いて行って様子を見てみることにした．ダウンタウンと言っても単に一本の広いメインストリートが線路に沿ってあり，いくつかの十字路があるだけだ．でもそれで十分だった．十分すぎるほどだった．
　彼がボブウルフ(Bub Wolfe)の薬屋に向って歩いていると，一人の男が歩み寄ってきて大きな笑顔で手を差し出して彼に話しかけた．「お会いできて光栄です，ベン．あなたのことは新聞や雑誌で読みました．ラジオでも聞きました．この町の住民はあなたを誇りに思っていますよ，ベン」
　この言葉は温かく，友好的だったが，彼にとっては変な感じだった．彼は何か気の利いた言葉を返すか，笑い飛ばして話題を変えるかしたかったが，彼の口に出てきたのは「いやいや，私は自分の仕事をしたまでです．．．」だった．
　こんなことが一日中続いた．人々は路上で彼を見ると立ち止まり，握手し，背をたたき，会釈して，彼がどんなに素晴らしいヒーローで，彼の功績でハーシイの町が地図に載るようになったことを口にした．子供たちもいた．彼が歩いていくと子供たちは立ち止まって彼を見つめ，彼の服に付いている綬章や徽章を大声で数え，どれが，優秀飛行戦闘士章で．どれがヨーロッパ戦線綬章なのかを確かめあった．小さな男の子が恥ずかしそうに歩いてきて，「本当にベンクロキなの」と聞いてきた．彼がそうだ，と答えると，その子は口を大きく開き，「すげえ...」としか言えなくなってしまった．
　この町では偏見を感じることはなかった．この町が彼の故郷であり，人々は同朋だった．彼らは彼の27年の記憶のすべてを占めていた．彼に初めてビーバー捕獲の許可をくれた人，彼のクラスメートの一人だった婦人，彼の親友の息子，クロキ家の農場で働いていた男．みんな知っている人ばかりだった．
　ここが彼のハーシイだった．砂糖大根，トウモロコシ，小麦，じゃがいも，畜牛．1892年にわずかばかり鉄道が引き込まれ，チョコレートとは何の関係もなかった大男の牧場主が名づけた町だ．農場主のベン・リンド(Ben Lind)が足を怪我して，トウモロコシの皮剥きができなくなったとき，誰かが共同電話でそのことをニュースとして広めたために，その日の午後には近所の全員が彼を助けるために集合した．スェーデン，ドイツ，アイルランド，イタリア，そしてもちろん日本語なまりの英語をしゃべる近所の者達だ．ネブラスカ州の農民の一群である．ベンは薬屋に入るときまで，そんなことを考えていた．ボブは，笑顔でカウンタ－からベンの所へ飛び出し，つかまえ，いちどきにあらゆる種類の質問を浴びせかけた．すぐに二人は，誰が誰と結婚したか，何人生まれて誰が死んだか，互いの世界中の友人どうしがどうしているかを確認しあった．
　そうこうするうち，二人に共通の記憶が蘇ってきた．特に，ベンが生まれて初めて酒を飲んだときのことに及ぶと，二人の会話はとても弾んで笑い声もより多く混じるようになった．ボブの話によれば，すべてが鮮明に思い出せるという．それはバスケットボールの試合に行こうと５人の仲間でボブの店で待ち合わせているときだった．誰かが店の奥にあるウィスキーの大きなボトルでボブをからかいはじめ，ベンを除いたみんなは，いきなりそれを飲み始めた．ベンは困ったように言ったのだ，「ボブ，僕は金を持ってないので何も飲めないや」．それを聞いたボブは「いいさベン，明日タマネギを一袋持ってこいよ」と笑い飛ばしたのだった．
　強いアルコールはベンの頭を回し，膝はふらふらになった．すべては喧噪の中でぐるぐる回っているように感じられ，ベンは笑い続けていた．笑って笑って笑って，ベンが笑うとみんなもまたさらに笑った．ゴーディ(Gordy)も頭を冷やしたがっていたので，ベンは二人で誰もいない通りへ千鳥足で出ていった．突然ゴーディは立ち止まって店のショーウィンドーを見つめ，「何か見えるぞ」と言った．驚いたことにゴーディの手から血が出ていた．その次に思い出せるのは，二人とも道路の溝に座り込んで，狂ったように笑いこけていたことだ．．．薬屋に客が何人か入ってきたので昔話はそこで途切れた．ボブが客の相手を終えたときには，笑い声は絶え，雰囲気も変わってしまった．ベンは外に出て，あてもなく歩き始めた．セシルが通っていたビューティーサロンが角にあった．セシルはいつもクロキ家の家族がみんなこのビューティーサロンに列をなして髪を切りに来てしまうことに文句を言っていた．「ここは床屋じゃないのよ．ビューティーサロンなのよ．みんなの髪の毛のおかげで，はさみが鈍くなっちゃうわ．みんなの髪は馬のしっぽみたいに固いんだもの」それでもクロキ一家はみな髪を切りに通い続けていたが．
　見上げると，いつの間にか学校に来ていた．以前と同じ赤煉瓦で二階建ての校舎だが，少し小さくなったように見えた．道路を渡ると，メソディスト教会の横の草原で，同じ牛がモーと鳴き，草を噛んでいた．学校の中に入り，ベンは素早く辺りを見まわした．以前と同じ噴水があり，何も変わっていなかった．講堂へ入っていく階段を一段飛びに上った．自然に彼の足は，昔彼が使っていた机に向った．彼が彫ったイニシャルを見つけ，懐かしく腰を下ろした．ここに彼が座って，ビル・ダイアモンド(Bill Diamond)があそこで，ゴーディがあそこの席だった．この３人がマスケット３銃士だった．３人はいつも行動を共にした．スピットボール(野球で投手がつばをぬって投げる球)を投げ，授業中にタバコを噛み，マスタードをたくさん詰めたオムツをアルマ・パーディ(Alma Purdy)の机の引き出しに隠し入れた．彼女が机を開けたときの叫び声，先生がおそるおそるつまみ上げ，部屋の隅に持っていって捨てた動作．３人は笑い出さないようにこらえているのが必死だった．そのクラスで劇を演じたことがあった．ハンサムなゴーディはヒーローで，ベンは女装して，フランス人の使用人に化けた．彼のつけたヤギのひげは，劇中何度も落っこちて，しまいには観客もはらはらとするほどだった．
　ベンがフランス人の使用人の記憶に浸っていると，二人の女の子が講堂に入ってきて，小さな椅子に座っている変な兵士をじっと見つめた．二人はくすくすと笑い，さっと走り去った．ベンは自分が恥ずかしくなった．
　壁は卒業生の写真で埋まっていて，ベンは自分と14人の同級生の 1936年卒業生写真を見つけた．ある者は結婚し，町を離れ，そして死んだ．彼は自分の写真をじっと見つめた．若くて真面目顔だ．当時まではファンがたくさんいたことだったろう．
　ポケットにネズミを何匹か入れて学校に来て，そのまま忘れていたことがあった．ネズミが彼を噛み出したので床に投げつけると，部屋中がパニックになった． 6年生の先生がいちばん大きなネズミをぴしゃりと叩いたが，他の2匹が床を転がる頃には，そのネズミは彼女の右の背中に乗りあげて，彼女の髪をひっかき，かみついて，引っ張った．騒動は，先生の腹の上に一番大きなネズミが乗り上げて，彼女が用務員を大声で叫ぶまで続いた．生徒達はみんなただ呆然と何もせずに見ているだけだった．．．
教室のある下の階に行くと，一つの部屋のドアが開いていて，彼が2 年生だったときの担任だったビートリス・スミス(Beatrice Smith)先生が見えた．白髪になって，やつれて見えた．彼女は黒板にある「偉い人だけがユニオン・パシフィック鉄道に乗車できる．．．」という文章を指さしていた．
　ベンはおっかなびっくり教室に入り，彼女が彼を見つけて近寄ってくるまでそこに立っていた．彼女は彼が誰なのか，まゆをひそめた．「スミス先生，おそらく覚えていらっしゃらないでしょうが，私は，この子達位の時に，あなたに教わっていた生徒です」子供たちを指さしながら言った．
彼女は長い記憶の中から彼を思いだそうと，ベンを静かに見つめた．「ええと，あなたはクロキ家の子供の一人にちがいないわね，だけどそのうちの誰だったかしら．．．」
ベンは会釈しながら「10人の兄弟姉妹でしたから．．．」
「わかったわ．あなたはベンでしょう．ノースプラット新聞で写真を見ましたよ．思い出しました．あなたは学期の途中から転入してきてとても恥ずかしがりやの小さい男の子でしたね．ほとんどしゃぺらなかった．私はあなたの兄妹のうち5人は教えたはずだけだわ．ええっと，最後の子はローズマリー(Rosemary)だったかしら．彼女は今何をしているの？」
「彼女はシカゴで秘書をしています」
二人は，子供というのは今も昔もほとんど変わらないことを話した．ただ，今の子供は飛行機にとても興味を持っている，ということだった．
「ベン，子供たちに何か喋ってもらえますか」
こんな小さな子供たちに？何を話したらいいんだろう？
「そうね．あなたがこれまで行ったいろいろな国のこととか，B-29がどんなものか，とか．飛行機の話がいいわ．きっとみんな真剣に聞くから」
子供たちはみな彼を見つめ，真剣な顔になり，英雄を敬うまなざしになった．彼は子供たちにどんな風に海が見えるのか，そして太平洋にはどんな人が住んでいるのかを話した．
「多くの人は，私みたいな感じです」と彼は話した．
そして彼は，B-29がB-24に比べてどれだけ大きいか，そして，装備をすべて積めたときのB-29の重量が137,000ポンド(60トン)よりも重くなることを説明した．言葉に詰まったので，彼は生徒達から質問やコメントを受けることにした．長い沈黙の後やっと一人の小さな男の子が半分手を挙げて，すぐ下ろし，そしてまた手を挙げた．その子は金髪で，ベンの知っている誰かに似ていた．
「僕がおじさんの所を訪ねたとき，フェンスに座ってB-29が飛び立つのをよく見ました．」言い終わると彼はすぐに座った．そのときまでに他の手が挙がっていた．「一度モーターに火がついたまま飛んでいる飛行機を見たことがあります．それから，飛行機が煙突のすぐ上を飛んで行って犬が追いかけていったこともあります」
　他の女の子も言い始めた．「私が一度見たことがあるのは，．．．」
彼はただそこに立って，耳を傾け，笑顔になるのを押さえながら，自分が彼らくらい小さかったときのことを思いだそうとしていた．．．この町には密売人がいて，空の酒のボトルを持っていくと，一瓶ごとに5セントをくれた．ベンとビルはほとんどの空き時間をごみ箱や灰に埋もれたドラム缶の中を探し回ることに費やした．5セントはかなりの金額だったのだ．長い間，彼の昼食代は5セントだけしか渡されていなかった．5セントでは，リンゴの一個も小さなケーキも買えなかったが，他の子が肉やチーズで膨らんだサンドイッチを食べているのを尻目に，固いビスケットとジャムだけの弁当で我慢するよりはましだった．
「ねえお母さん，どうして僕にはいつもビスケットとジャムしかくれないの？もっといいのを持っていきたいよ．」
そうは言っても，母親はじっと彼を見つめるだけだった．彼女は父親と共に一日中畑で働いていた．疲れ切っているところへ，空腹を我慢できない小さな顔が目の前で訴えていたのだ．どうやって彼に説明しろ，というのだろうか．彼女の目が訴えていた．「もう少したったらね，ベン．もう少したったら．．．」
　服に関しても同じだった．彼は，半ズボンをクラスメートの一番最後になるまではいていた．そして，初めて上下そろいの服を着たのは，州のスペルコンテストに選ばれて参加することになったときだった．　毎日暗くなるまで野球をしていた日々だった．隣町のチームと試合をするときは馬に乗って出かけた．一度みんなで，ニコール (Nichols)へ遠征し，ベンが年上のバーディット・クレモン(Burdett Clemmons)の代わりにピッチャーをしたことがあった．年上の仲間の二人は，ベンがハーシイの町へ帰るまで，トウモロコシの穂毛を炊き出したり，さまざまなことを互いにたくらんで，ベンの妨害をした．彼らも年をとり，背も高くなって見かけも変わったろう．
「おや，バーディットじゃないか．．．」
「おお，ベンか．．．」
他に一言も出ず，彼らはすれちがった．何て言ったらいいのか，どう話し出せばいいのかわからなかったので，きまりが悪く，恥ずかしかった．何年もの空白は二人を不器用に，不慣れにしてしまった．
　今から5年経って戦友達と再び会ったら，こんな感じになってしまうのだろうか．
「私のいとこは水兵ですけど，彼は飛行機も好きです」小さな女の子がしゃぺるっている声に，ベンは幻想から覚めた．何人かの他の子供がそれからまた話し，スミス先生がベンに来てくれたことにお礼を言うと，生徒達はみんな拍手をした．ベンは立ち去る前にスミス先生に何人かの子供たちの名前を尋ねた．何人かは彼の学友の息子や娘たちだった．急に年を取った気がした．
　ゴーディの母親は，一つブロック離れた所の大きな家に住んでいた．ベンは訪ねてみることにした．戸をたたくと，彼女が応え，花柄の服を着て出てきた．大きくて親しみ易そうな母親だった．彼女が挨拶を口に出すまで，彼はまるで誰か他の人を見るような視線でじっと見つめられた．応接間に二人で座ったときもまだ，彼女はベンを目を丸くして見つめていた．
　彼は笑顔のままでいようと努力した．彼女が前回泣き出したようなことにならないように，何か言おうと考えていた．ここへ来なければよかったとも後悔した．
　しかし，彼女は泣かなかった．手を膝の上で組みベンを見て会釈した．
「さて，ベン，故郷に帰ってきてどう思う？」
軽い質問だったので，軽く答えられるはずだったが，そうはいかなかった．ベンは，感じていることをとうとうと話はじめた．彼は昔この家によく遊びに来ていて，彼女もベンのことを良く知っていた．
　ベンはよく夜明け前にここへ来て，彼女はベンとゴーディ二人にミルクとクッキーを与えた．そしてぶかぶかの靴と彼らの背丈ほどもある12ゲージの銃を見てにっこりと笑っていた．ベンとゴーディは小さかったので，引き金を引く度に反動でひっくり返った．捕ったカモを入れるべく，大きなカバンを持っていくのだが，まずほとんど空のまま帰ってくることになった．一度ゴーディが，近所の一人が飼っているカモを誤って撃ってしまったことがあった．それからゴーディは，アイザクソン(Isaacson)家の豚を一匹ほとんど殺してしまったこともあった．干し草の上で寝ていたのでタカの雛のように見えたからだった．二人が初めてカモを撃ったとき，ベンは氷の池の上を這って獲物を取りにいかなければならなかった．運悪く，氷が割れ，ベンは池に落ちてしまった．ゴーディは銃の柄をベンに差し出し，ベンはそれにしがみついて助けられた．ゴーディがやっとのことで火をおこしたとき，ベンは火に近づきすぎて足のすね毛を焦がしてしまった．結局その日はカモを手にできなかった．
　しかし他のときにカモを手に入れたことがあった．初めてカバンいっぱいにカモを仕留めて帰宅したときはびしょぬれでみじめな格好だったが，幸せいっぱいで二人で国歌から「ハッピーバースディ　トゥ　ユー」まであらゆる歌を歌いながら帰宅したのだった．
　いったいゴーディは今どこにいるのか．太平洋の島で土になってしまった．
　ホルヘンソン(Jorgenson)婦人はゴーディの写真を取り出した．軍服姿のハンサムなカラーで彩色された写真だった．
「彼は見てくれのいい男だったわよね，ベン」彼女は注意深く尋ねた．　ベンは頷いただけだった．「彼にはとっても可愛い息子もいたわ．．．そうよね．ベン」
部屋には沈黙が流れ，しばらくたつと不意にすすり泣く声が沈黙を破った．まるで彼女が慟哭のすべてを内面に押さえているような響きだった．まるで彼女が泣いていることを押さえつけているような押さえつけていないような響きだった．ベンは彼女を見ないように心がけた．　彼女が目をぬぐって，服を正し，ベンにミルクとクッキーはいるか，と聞くまでに，長い時間を要した．
「結構です．ホルヘンソンさん．家では母がフライドチキンを作って待っていますので」
彼女のまだ潤んだ目を後にして，ベンは道路に出た．引き金で指を軽く動かせば一秒後には男が死ぬ．それだけのことだ．だけどどうしてゴーディが．何故ゴーディなんだ．
　家にたどり着くと，もう夕御飯はテーブルに並んでいた．フライドチキンとその添え物は，彼が遠征している間ずっと夢見ていたものだ．ベン以外のみんなは饒舌だった．ベンは食べるのに忙しかった．だが，ジョージがごく普通に今日は学校の体育館でバスケットボールの試合があるよと口にしたときは食事が止まった．彼は試合を見に行っただろうか．もちろんだ．
　彼が前回バスケットボールの試合を見に行ったのは，前回フライドチキンを食べたとき以来だった．小さい子供の頃から彼はバスケットボールをよく見た．夕食後そのまま夢うつつになってしまうのが常だったが．その日の試合はもう始まっていた．すでに満席で立って観戦することになった．表情のない農民たちがいて，うるさい小さな子供たちは人込みの中を走り回っていた．年を取ったマーティーン (Martinez)婦人はまったく試合はお構いなしに，ハーシイチームのひょうひょうとしたメキシコ人の男の子から目を離そうとはしなかった．マーティーン家の子供がハーシイチームにいたのと同じように，ずっと以前クロキ家の子供たちも大抵ここにいたのだ．ヘンリーとフレッドは，クロキ家の誇る名バスケットボール選手だった．もっと言えば，ヘンリーは2年間チームの監督で，一度は優勝に導いたのだ．
　ベンはそれほどいい選手ではなかったが，バスケットボールをするのは好きだった．試合が終わって体育館に誰もいなくなると，ベンはハンドボールを取り出して一人でバスケットボールまがいのゲームをしていたものだ．
　ベンが成長してチームに入ると，父親が試合を見に来てくれた．ベンは，父親が歯をむき出して脇の線から叫んでいるのが見えた．「行け，ベン，行け．．．」
ゲーム自体はいつものごとく，パスが続かず，シュートミスだらけの陳腐なものだった．試合終了までに選手達はくたくたにあえぎ，汗をぬぐう力もないほど疲れ切っていた．ベンは彼がチームの一員だった頃を思い出しながら試合を見ていた．試合が最後までシーソーゲームで進むと，ベンは自分がボールを握りしめ，興奮して緊張している錯覚に陥った．すぐ後ろでは2つの小さなスタンドで生徒達が大声で声を合わせてエールを送っていた．
　　２，４，６，８
　　誰のため
　　チーム，チーム，チーム
試合が終わり，人々が汗臭い場所から一斉に出始めた．ベンとビル・ダイアモンド(Bill Diamond)は同時に目が合い，人混みをかき分けて手を握り合った．
　二人は「やあ，名戦闘士．．．」と言う言葉だけを，何度も何度も繰り返した．
　そしてやっとビルが「これが妻だよ，ベン」と紹介した．彼女は小柄で可愛く，目がまたたいていた．
「あなたがベンだったの．．．」
ベンは彼らの家まで共に歩き，その間ビルが親に似て禿げて太ったことをからかった．二人の間には多くの記憶が蘇ってきた．
「覚えているか，お前と俺とゴーディで英語の授業中に喧嘩をはじめて，3人みんな外にほうり出された時のことを」
「覚えているさ．先生の態度が悪かったときには，先生の窓に石を投げたときもあったなあ」
「ビル，そういえばお前は自分のじいさんがバッファロー・ビル (Buffalo Bill)の個人的な知り合いだって自慢してたなあ」
「それは本当の話だよ，ベン．彼は本当にバッファロー・ビルの親友だったんだ」
二人は笑い，話は弾んだ．
「ビル，お前が学校の先生と結婚するなんて，考えたこともなかったよ」
ビルの妻は，隅に座って静かに聞いていた．入れたコーヒーがそのまま冷めてしまったので，彼女は立ち上がって二人の男の子に微笑み，もう一杯作るために台所に消えていった．（翻訳　寿明）
[解読] ------------------------　
第3章まででBen Kurokiの兄弟姉妹の名前が判明した．（第2章は現在理香氏によって訳出中）．10人兄弟姉妹で，上下関係はいまだ不明であるが，次のようである．
Pop+Mom
     -- 10人の子供
　　　 |----長女  Fuji      
　　　 |----男    George    
　　　 |----男    Henry     
　　　 |----男    Ben  ----3人の子供?
　　　 |----男    Fred　    
　　　 |----女    Cecile    　夫はBob 
　　　 |----女    Wilma    
　　　 |----四女  Rosemary　　教師が教えた最後の下の娘　Chicagoで秘書
　　　 |----男    Bill        下から二人のうちのひとり
　　　 |----男    Beatrice    下から二人のうちのひとり
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updated Feb 12, 2000

ベンクロキ研究レポート 第3回

『ネブラスカから来た男--ベンクロキの物語』第1部 第3章

ベンクロキ研究班 真貝寿明

ベンクロキ研究レポート　第3回

『ネブラスカから来た男--ベンクロキの物語』第1部　第3章　

ベンクロキ研究班　真貝寿明