このページ  Einstein1905.info トップ / GR / 一般相対性理論の専門書
関連ページ  Einstein1905.info トップ / GR / 一般相対性理論研究リンク,
関連ページ  Einstein1905.info トップ / Database / 「書評」一覧(教科書編)(一般書編)解説記事 一覧
関連ページ  Einstein1905.info トップ / Einstein / 年表, 1905年の業績, 2005年のイベント

一般相対性理論の教科書・専門書

Hisaaki Shinkai

Misner, Thorne and Wheeler Gravitation 必携の「電話帳」
レベル=本格的に学ぶ教科書
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   Gravitation
著者   Charles W. Misner, Kip S. Thorne, and John A. Wheeler
書誌事項  W. H. Freeman , 1973, 1215 pages, ISBN: 0716703440
amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説     その分厚さから「電話帳」(英語でも"phonebook")と呼ばれる,研究者必携の本.30年前に書かれたとは思えないほど, 内容は現在でも定番で,デザインも新鮮である.
 一般相対論の数式を記述する時は,計量の符号・添字の種類や曲率の定義の符号が人によってまちまちであり, よくトラブルの元になる.Gravitationは,表紙の裏にそれまでの教科書の符号の定義を一覧する表を付し, しかも一般相対論のほとんどすべての分野を網羅的に統一して記載したために,この本のnotation(-+++)が, その後の数式記述のスタンダードになった.10年前は,論文で一言「notationはMTWに従う」と書いていたものだが, 最近ではその必要もなくなった.
 外微分も併用して記述している初めての教科書であり,例えば「具体的な曲率の計算方法(Box 14.5)」など, 私は何度世話になったか数えきれない.しっかり読んだのは数章にすぎないが,事典的にいつも傍らにいる教科書である. spinorやRegge calculusまでをカバーしていて,大学院生でも十二分に楽しめる.実はこの本の英語は結構難しい. nativeでないと楽しめない言い回しがたくさんあるので, 初学者は英語にとらわれず数式を追うだけでも十分だろう.
 読者のレベルを2段階に分け,しかもコラム形式を多用している点は,その後の教科書の読みやすさを進化させた. これらのセンスは,WheelerとThorneによる.Wheelerの論文は図も多く常に示唆的であり,Thorneのレビューは コラムの囲み記事だけを読み進めればよい構造になっていることが多い.心配りといい,内容の広さといい,非の 打ち所がない教科書で,100ドルは惜しまず払うべきである.
 しかし,30年もたつと,宇宙論の記述はさすがに古くなっている.「Gravitationの第2版が出る」とい う噂は時々あるのだが,Thorne氏と雑談した際に伺ったところ「その計画はない」とのお答え(2002年秋). 「1ページでも変えて,第2版にすれば,世界中の研究者は買いますよ」と言ったら,彼は微笑んで「もっと違うスタイルを 考えているんだ」と宣った.
 ちなみにこの本のコラムで紹介されている研究者で,執筆当時に生存している人(今でもご存命であるが)は, PenroseとHawkingの二人だけだそうである(佐藤文隆氏が以前どこかで書いていた).   2005/2/14

このページのトップへ戻る
Wald General Relativity 実用的な定番
レベル=本格的に学ぶ教科書
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   General Relativity
著者   Robert Wald
書誌事項  Univ of Chicago Press, 1984, 506 pages; ISBN: 0226870332
amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説     連載を始めたものの,始めの何回かは定番と言われる本を紹介せざるを得ない.Waldのこの教科書は,専門家 なら大学院に入ると一度は通読する本である.定番すぎて,解説するのが怖いくらいだ.
 一般相対論は,物理肌の研究者と数学肌の研究者が互いに研鑽を積む学問であり,時折その温度差も楽しめる. Waldはどちらかというと数学肌か.Einsteinが作り上げた一般相対論からは,全くブラッシュアップされた 一般相対論を展開している.物理的な思考回路にどっぷり浸かっていると,抽象数学の本は手ごわいばかりだが, Waldのこの本は,数学用語の中で,一般相対論で必要となることだけをきちんとまとめて提示してくれるので,とても便利である.
 多様体の説明から始まって,テンソル場・曲率へと話が展開するときには,付録で外微分形式・Frobeniusの定理・Lie微分 ・Killing場の説明がコンパクトに用意されている. 特異点定理について概略を知るならば,Hawking-Ellisの「Large Scale Structure of Space-Time」を読まなくても, Waldの8章と9章を読めばよいし, conformal変換ならWaldの付録Dにまとめられている.そういった安心感こそ,この教科書が長く支持されている理由だろう.
 物理的なセンスが基本を貫いているのは確かなのだが,いわゆる現象論的な題材はほとんどない.ブラックホールについては 熱力学まで解説されているが,宇宙論や重力波の記述は平易すぎる.spinorの章を苦労して読んでも,その応用が あまり書かれていないので,御利益があまり感じられなかったりする.まあ「こんな感じの研究分野なんだな」と感触を 得るには,これで十分なのかもしれないが,ちょっと濃淡がありすぎる気がしないでもない.
 Wald氏に,この教科書の執筆のきっかけを聞いたことがある.30代の半ばに,自分のためのノートとして書き始め, おおよそこの本の半分くらいまで書き上げたときに,出版の話がきたそうだ. Wald氏は,インフレーション宇宙論の一般性問題に対する「宇宙脱毛仮説(cosmic no-hair conjecture)」を 一様時空について定理として証明している(Phys. Rev. D 28, 2118 (1983)). この教科書を読めば,論文の証明は練習問題のようなものに感じられる.きっと,教科書執筆の余興で,論文を 仕上げたのだろう.    2005/2/21

このページのトップへ戻る
内山 龍雄 相対性理論 序文が有名な入門書
レベル=入門書(数式あり)
お薦め度=☆☆
書名   相対性理論 【物理テキストシリーズ8】
著者   内山 龍雄
書誌事項 岩波書店; 1977; 231 pages; ISBN: 4000077481
amazon.co.jp》 《bk1》 
解説     日本人の相対論の教科書を紹介するのに,内山氏の著作から始めるのに異論のある方はいないだろう.私は,内山氏の相対論の教科書を3冊持っているが,今回は,岩波全書のシリーズの1つとして出版された学部学生向けの入門書を取り上げる.
 これは,序文が有名である.「相対性理論をこれだけ平易に解説した書物は他には見当たるまいとひそかに自負している次第である.…本書を読破したなら,相対性理論を理解したという自信をもってさしつかえない.もし本書を読んでも,これが理解できないようなら,もはや相対性理論を学ぶことはあきらめるべきであろう.」ここまで書かれたら買って読むしかないだろう.
 確かに,基本に沿って,特殊相対論と一般相対論をきちんと解説する正統派の教科書だ.Lorentz変換・テンソル算・相対論的力学を論じ,等価原理・Riemann空間・重力場の方程式へと進む.Einstein方程式が登場するのは漸くの170ページ目で,残り40ページが重力場のエネルギー・重力波・Schwarzschildブラックホール・光線の湾曲である.さすがに最後は急ぎ足で,読んでもあまり得した気分にはならないが,きっちりとした前半部分は授業の種本とするには便利ではある.
 だが,このスタイルの教科書が万人に受け入れられるかどうかは,別の問題だろう.記述は正しいのだが,読んでいても内容の面白さが感じられないのだ.延々とテンソルやRiemann空間を勉強しても,その必要性が明かされるのはずっと後のこと.物理学科の学生ならば耐えられるはずだが,ちょっと興味を覚えて本を手に取った読者にはヘビーすぎる内容だ.実際,私にはこの本で相対性理論をあきらめた友人もいる.
 80年代以降の教科書には,エピソードを随所に取り入れた,読みやすいものが多く登場することになる.90年代には,岩波書店もテーマごとの入門書の出版を始め,今では大学の教科書のスタイルもずいぶん変わってきた.読者のレベルに迎合したような本のスタイルや,テーマの切り売りには賛否両論があろう.「真面目で」「きちんと」「正確に」記述している安心感を買うならば,本書は正解である.また,入門書でありながら,Kruskal座標やKerr解の説明は原論文を見よ,と突き放すところなど,内山氏の研究に対する厳しさを感じ取れる書でもある.これらの意味で,本書は,古典に入るのかもしれない.    2005/2/28

このページのトップへ戻る
内山 龍雄 一般相対性理論 70年代の日本の宝
レベル=本格的に学ぶ教科書
お薦め度=☆☆☆☆
書名   一般相対性理論 物理学選書 15
著者   内山 龍雄
書誌事項 裳華房; 1978; 406 pages; ISBN: 4785323159
amazon.co.jp》 《bk1》 
解説    著者自身が序文で述べているように,この本はさらに10年ほど遡った「一般相対性および重力の理論」(山内恭彦,内山龍雄,中野董夫共著,裳華房,1967)をベースにした著作である.両書とも残念ながら現在書店では在庫切れで入手は難しいが,どちらも専門家向けの教科書として,丁寧に書かれた良い本だ.
 共著と単著の違いはあるが,両書の構成や文章はとても似ている.67年版にだけある章は「Einstein理論の実験的検証」と「重力理論の正準形式と量子化」「付録:特殊相対論」であり,78年版にだけある章は「Einstein方程式の厳密解」「Einstein方程式の数学的性質」である. 一般相対論のみを扱う日本人による日本語の教科書は,当時はまだ少なく,71年に出版された平川浩正氏の「相対論」や72年の後藤憲一氏の「相対論」(どちらも共立出版)を相当ライバル意識して執筆されたようだ.その辺りの経緯は,内山氏ならではの序文と参考文献欄にて読み取れる.
 改訂された項目で一番の特色は,Kerrブラックホールに関する記載の詳しさである.44章には,Kerr解の導出について20ページにわたる説明がある(もっとも,『本書の説明は,Adler-Basin-Schiffer著「Introduction to General Relativity」McGrow-Hill, 1975に負う所が大きい』との記述もあるが).一般相対論では,解であることさえ既知とすればそれを元に仕事ができるものであるが,これほど解の導出に懇切な記載は,その後のどの日本語の教科書にも見当たらない.
 その他,この本を特徴づけているのは,スピノール表現をきちんと経由した時空のPetrov分類の解説と,重力場の理論の正準形式に関する記述である.どちらも,60年代に登場した話であるが,いち早く日本語にしたばかりか,現在でも通用するnotationで解説している.
 あくまでも公理的な記述に立ち戻って解説する姿勢は,物理の一つの立場としてとても正しい.読者に迎合せず,執筆者としても妥協せずに書き上げられたこの本は,当時の若い世代の研究者を刺激し,今日の日本の相対論研究を拡げるのに貢献したのだろうと考えられる.   2005/3/7

このページのトップへ戻る
Clifford M. Will
アインシュタインは正しかったか (原題 Was Einstein Right?)
この著者にしか書けない入門書
レベル=入門書(数式なし)
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   アインシュタインは正しかったか (原題 Was Einstein Right?)
著者   Clifford M. Will (日本語版は,松田卓也,二間瀬敏史 (翻訳), クリフォード・M・ウィル (著))
書誌事項 TBS ブリタニカ; 1989; 287 pages; ISBN: 4484881128
(原著はBasic Books, 1986/1993, ISBN: 0465090869)
amazon.co.jp》 《bk1》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説    私がこの本に触れたのは,大学3年の頃だった.ちょうど,相対論の研究室に入ることが決まった時に本屋に平積みにされていて,一晩で読み終えたことを覚えている.まだEinstein方程式までを理解していなかった頃だが,これから相対論は面白くなりそうだ,と勇気づけられたことを思い出す.
 この本は所謂「とんでも本」ではない.「一般相対論の実験的検証」という新しい分野を開拓し,今でもリードしているWill氏による,一般向けのエッセイである.しかし,一般人も,専門家もその内容を楽しめる,という良く出来た本で,1987年の米国物理協会(AIP)著作賞受賞・1986年のNew York Times Book Reviewのベスト200,10カ国での翻訳版が出る,という経歴を持つ.私はWill氏の隣の部屋で3年間ポスドクをしたが,一度彼に「私の本には日本語訳もあるんだよ」と言われたことがある.「私の持っている日本語訳の本には著者のサインがありますよ」と切り返すと,彼は以前来日したときにサインをねだった学生を思い出せずに困った様子だった.
 本の内容は,タイトルの通り,「一般相対論は,どこまで正しいか」という疑問と,その実験に対するレポートで,Einstein自身が予言した,3つのテスト(重力赤方偏移,水星の近日点移動,太陽による光の曲がり)についての解説の他,Hulse-Taylorによる中性子星連星の発見,金星や火星に対するレーダーエコーの遅れ,Brans-Dicke理論による理論検証の意義などを数式を一つも使わずにテンポよく解説してゆく.いずれもそれらに関わる人間のドラマも含めて書かれているので,愉快である.例えば,NordtvedtがDickeに初めて会う場面はこうだ.
『ノルトベットはディッケに自分の発見を告げ,彼の助言を求める絶好の機会として,ディッケの乗る飛行機を調べ(中略)同じフライトの搭乗券を買った.飛行機の中で彼は,ディッケを捜し,その発見を説明した.ディッケの苦悩は察するに余りある.全く知らない人がやってきて,あなたの理論は等価原理を破っているといっているのだ.』(日本語版 p154)
後に,国際会議でNordtvedt氏の話を聞くときに,私にはこのフレーズが甦ってきて楽しかった.
 この本の出版から20年が経ち,今では世界各地では重力波の検出実験が本格的に稼働し,人々はGPSを通じて一般相対論の恩恵を毎日受けている.60年代まで役に立たない理論としてほとんど研究対象にならなかった一般相対論を,これほどexcitingなものにしたのは,この本に登場する研究者達であった. なお,この本にも書かれているが,Einstein自身は,自分の理論の検証実験にはあまり関心がなかったことはエピソードとして有名である.一般相対論は,理論的にもっともシンプルな帰結だったので,彼にとっては疑う余地のないものだった.これは,今でも多くの研究者が実感している事実だろう.Will氏はその後も「Einsteinは99.9999%正しい」という主旨の学会講演を各地で行っている.
 ところで,この本の訳者あとがきに,「ウィル先生の家は広い.プール付きだ.」と二間瀬氏が述べた,と松田氏が書かれている.広さはともかくとして,ウィル先生の家(Washington大から徒歩15分)の庭はすべてプールになっていることをここで暴露しておこう.   2005/3/14

このページのトップへ戻る
Clifford M. Will
Theory and experiment in gravitational physics (Revised edition)
この著者にしか書けない専門書
レベル=分野を特定した専門書
お薦め度=☆☆☆☆
書名   Theory and experiment in gravitational physics (Revised edition)
著者   Clifford M. Will
書誌事項 Cambridge Univ. Press; 1993; 396 pages; ISBN: 0521439736
amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説    ある分野を語るのに決して外せない,という本がある.「一般相対論の検証」分野では,このWillの教科書は絶対に外せない.1981年に初版,93年に改訂版が出て以降も,Willの後にも先にもWillなし,といった感のある,孤高の存在である.これまでに,一般相対性理論を改良(?)したさまざまな重力理論が提案されたが,ほとんどの理論は実験によって淘汰されている.そのプロセスを見事に整理し,解説してくれるのは,いつもWillである.「Einsteinは正しかったか」という一般書をpopular reviewとするならば,こちらはtechnical reviewと言える.
 本書の核は,pameterized post-Newtonian (PPN)形式の解説と,諸々の重力理論から得られるPPN運動方程式,及び一般相対論から帰結される高次post-Newtonian形式,そして種々の実験による一般相対論の検証の現状である.PPN形式は,さまざまな重力理論をパラメータで表示できるようにした"book-keeping" systemである.そして理論の検証実験は,ことごとくdeadly test (その理論にとって命取りとなるテスト)でもある.Einsteinによる一般相対性理論が,"reasonableness" (もっともらしさ)を元に構築された一番シンプルな理論であるのにも関わらず,すべてのテストをパスし,生き残っているということは,他の物理では考えられないことだ....結論は周知の事実であるが,そこに至る説明や語法は,Will氏独特の言い回しだ.
 私は,Will氏が1974年のScientific American (vol 231, pp25-30)の記事につけた重力理論の絞り込みの図が好きで,Will氏の前でセミナーをした時にその図をビューグラフで使ったことがある.それを見て彼は,「これは大学院生の時に書いたんだ」といつもの意味深な苦笑いをしていた.一般ウケするような図は,残念ながらこの教科書には皆無である.その辺り,読者層をきちんと心得ている.popular reviewにも書いているが,彼は,Thorneの元で「一般相対論の検証」という分野を開花させ,それ以後ずっと一線を走り続けている.MTWの読みやすさはきちんと踏襲されていて,全部を通読しなくても,表やまとめの部分が非常に分かりやすく,表の部分だけコピーしてビューグラフに即刻利用可能となるところが,とても重宝な本である.
 実験技術の進歩は速く,10年以上も前の教科書では,到底現状には追い付けなくなっている.Will氏は,「The Confrontation between General Relativity and Experiment」というタイトルで数年ごとにレビューを書き直していて,現在の最新版は,2001年のものがLiving Reviews in Relativity 2001-4で入手できる.
 一般相対論研究が,重力波検出を中心に進むまでには30年以上を要した.数年前に彗星の如くに登場したbrane-world 高次元時空モデルは,それまで地道に重力理論の検証実験を行っていた研究者を表舞台に立たせることになった.そのような研究の流れを地道に作ってこられたWill氏には敬服せざるを得ない.一般相対論を盲目的に信じるのならば必要の無い本であるが,自分の理論はどのように検証可能か,という物理としての基本的な視点を持つのならば,本書を傍らに置くことに絶対損はしないだろう.  2005/3/21

このページのトップへ戻る
エリ・デ・ランダウ (著), イェ・エム・リフシッツ (著), 恒藤 敏彦 (翻訳)
場の古典論
最初から最後までランダウ=リフシッツ
レベル=本格的に学ぶ教科書
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   場の古典論 原書第6版―電気力学、特殊および一般相対性理論
英語版タイトル:The Classical Theory of Fields : Volume 2 (Course of Theoretical Physics Series)
著者   エリ・デ・ランダウ (著), イェ・エム・リフシッツ (著), 恒藤 敏彦 (翻訳)
E M Lifshitz, L D Landau
書誌事項 東京図書; 1978; 450 pages; ISBN: 448901161X 《amazon.co.jp》 《bk1》 
英語版 ISBN: 0750627689《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説     古典と呼ばれる教科書の解説をしばし続けたい.「ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」は,物理学科に在籍するならば,避けては通れない本である.ランダウ先生の所へ入門するためには,このシリーズをすべて読みこなした後でなければ学生と認められなかった,という逸話もあるが,それにしてもなかなか手強いシリーズだ.
 シリーズの第2巻になるこの『場の古典論』は,当然第1巻の『力学』に続く巻である.しかし,『力学』がいきなり「最小作用の原理」の章で始まることから察せられるように,この巻も内容は「電気力学」「特殊および一般相対性理論」とはいうものの,第1章は「相対性原理,Lorentz変換」から記述されている.初学者には絶対理解されないような構成であるが,既学者には読書欲をもたらす衒学的で意欲的な構成だ.
 章の構成は,相対論的力学,Maxwell方程式,電磁波の放射,と進んだ後,第10章からが一般相対論の解説になる.ちなみに,私の指導教授は,会った初日に「場の古典論の第10章から先を読みなさい」と仰せられた.当時は従順であった私だが,その苦労を察していただけるだろうか.翻訳書として日本語で書かれているはことだけは救いなのだが,ゼミで取り組んだWeinbergの方が先に読み終わってしまった位だ(さぼっていただけかもしれないが).
 さて,この本の面白さは,各章末の「問題」が,過去の論文のアブストラクトになっていることだ.Schwarzschild解の章末には「静止している軸対称物体の周りの真空静重力場を求めよ」(Weyl解を求めよ),Kerr解の章末は「Kerr時空で運動する粒子に対するHamilton-Jacobi方程式の変数分離を行え」(Carter, 1968),重力波の章末は「楕円軌道を運動する2物体系が重力波で放射するエネルギーの回転周期についての平均を求めよ」(Peters-Mathews, 1963)という具合だ.問題として出されて解ける人がいればお会いしたいが,一通り学んだ後ならば,必要で的確な問題であることが感じられて憎い限りである.
 原著は1973年版のロシア語版.宇宙論の章は,やはりというべきか,Belinskii-Lifshitz-Khalatnikovによる,当時流行の兆しにあったBianchi IXの宇宙モデルで終わっており,時代を感じさせる.最初から最後まで信念に貫かれて書かれた書であり,原著ではコラプサーとされていた語をブラックホールと言い替えられた翻訳者の英断もある.古典的名著として,これからも多くの学生を魅了するであろう.  2005/4/12

このページのトップへ戻る
Steven Weinberg
Gravitation and Cosmology: Principles and Applications of the General Theory of Relativity
Weinberg怖るべし
レベル=本格的に学ぶ教科書
お薦め度=☆☆☆☆
書名   Gravitation and Cosmology: Principles and Applications of the General Theory of Relativity
著者   Steven Weinberg
書誌事項 John Wiley & Sons Inc; 1972; 688 pages; ISBN: 0471925675
amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説     1979年のNobel物理学賞は,電弱統一理論を提唱したGlashow, Salam, Weinbergの3人に与えられた.賞金は等しく3等分されている.彼らが60年代に発展させた理論が予測する弱い相互作用が70年代に実験によって確認されたためである.Nobel賞のページにあるWeinbergの 「受賞者自身による略歴ページ」では,『60年代初めにはいろいろな分野の物理研究に手を染めた.自分自身に物理を教えるためである.そして,61年頃から宇宙物理学にも興味を持つようになった.宇宙を満たすニュートリノ量の論文を書くと共に,一冊の教科書の執筆につながった』と記載されている.こうして,Weinbergが『Gravitation and Cosmology』を出版したのが39歳の時である.ちなみに私はアメリカ人から「Weinbergはこの本をポスドクの1年間で執筆した」との噂を聞いたこともある.
 実に本格的な教科書だ.章立てを順に見ると,1.歴史的概観,2.特殊相対論,3.等価原理,4.テンソル解析,5.重力の効果,6.曲率,7.Einstein方程式と進み,ここで170ページ. 8.Einstein方程式の実験的検証,9.ポストニュートン力学,10.重力波,11.星の平衡と崩壊,12.最小作用原理,13.空間の対称性,と進み,ここで400ページである.
 この本は,私にとって初めて格闘した洋書でもある.学部4年のゼミ本として,指導教授の時間無制限の叱咤激励の下,式を追いながら読み進めた記憶があるが,時間をかければきちんと式の展開がフォローできる懇切丁寧さで,しかも(今から思えば)将来的な研究ネタに繋がる部分も網羅している,という素晴らしい本である.特に,一様等方空間を表す計量の一般的導出は,Weinbergのこの本が最初と言われている.
 驚くべきは,さらに続く宇宙論の部分だ.14.Cosmography(宇宙観測論),15.Cosmology(宇宙論)と章が分割されているが,前者はFriedman-Robertson-Walker計量のみを仮定し,一般相対論を適用しなくても成立する観測的論拠の解説,後者は一般相対論を適用した膨張宇宙論の解説,という区別である.このような適用範囲の明快な分割は画期的であり,この本以前の(或いは以後もほとんどの)教科書は,初めから一般相対論を元にした宇宙論を解説している点で,読者を啓蒙した事実は大きい.
 さすがに30年前では,「宇宙は100Mpcで一様等方」という認識であったし,その後の宇宙論パラダイムの発展から見ると古い部分が目立つ.しかしそのような歴史的な認識さえ読者が持っていれば,現在でもこの書を時代遅れと切り捨てることは許されないだろう.
 Weinbergは,その後「宇宙はじめの3分間」(1977)という一般向けのベストセラー書を著す.また,2000年には公理的な新しいスタイルの教科書「場の量子論」全3巻を上梓する.素粒子の専門家が相対論の専門家にもなり,宇宙論の語り手にもなる.Weinberg怖るべし.この感覚は,彼の本と対峙して直に感じる事実である.   2005/4/26

このページのトップへ戻る
Hans Stephani, Dietrich Kramer, Malcolm MacCallum, Cornelius Hoenselaers, Eduard Herlt
Exact Solutions of Einstein's Field Equations, Second Edition
これこそ "The" Exact Solution
レベル=分野を特定した専門書
お薦め度=☆☆☆☆
書名   Exact Solutions of Einstein's Field Equations, Second Edition
著者   Hans Stephani, Dietrich Kramer, Malcolm MacCallum, Cornelius Hoenselaers, Eduard Herlt
書誌事項 Cambridge University Press; 2002; 680 pages; ISBN: 0521461367
amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com
解説    タイトルそのまま,Einstein方程式の厳密解(解析解)を網羅的にまとめた本である.この本の初版は1980年で,研究者必携の書とされながらも以後長い間絶版状態にあり,最近ようやく第2版という形で再登場した.
 Einstein方程式は,空間の対称性や特殊な物質場を仮定することにより,さまざまな解が得られている.解を見つければ発見者の名前が冠されることもあり,研究者なら誰しも新しい解の発見に挑んだことがあるものだ.ただし,座標の取り方が違うだけで,実は同じ解だった,という報告も多く,例えばLemaitre-Tolman解は過去に20回以上もその発見が独立に報告されているという(このエピソードは,次回に紹介予定のKrasinskiの本の序文にある).
 本書の初版は,60年代に確立されたNewman-Penrose形式を用いた体系化された解の分類方法や,Ernst形式から出発するソリトン的手法による厳密解の生成法の研究の進展をまとめる形で出版された.第2版の序文にあるが,当時は2000を超える論文を整理したそうだが,その後の20年間で更に4000を超える厳密解に関する論文が存在したそうである.
 第2版では,初版の構成を保ちながらも,第1部の基本概念の解説に「Cartan法による解の分類」と「解の生成一般論」が追記され,第2部の等長変換群による解の分類では「平面重力波の衝突解」の章などが加わった.そして,第3部のPetrov分類を元にした代数的に特殊な解の分類,第4部の特殊方法,第5部の対応表という構成も従来通りである.第4部では「特殊な部分空間を持つ解の一般論」が加わっている.初版に較べてTeX化されて読みやすくなり,分量も増えて重くなった.(amazon.comではpdf版も買えるようである.)
 「本書は通読書としてではなく,カタログとしても使えるだろう」と著者自身が述べているが,カタログとして使う読者が多数だろう.その役に立つように,referenceも対応表も充実している.ただし,この本に収められた解は,エネルギー運動量テンソルを,真空/電磁場/輻射場/ダスト/完全流体のいずれかの場合に限っている.従って,例えば荷電流体/スカラー場/剛体などの解を探しても該当しないことに注意する必要がある.ともあれ,本書で「a solution」なのか「the solution」なのか,という記載を読み取ることは必須であり,今後とも厳密解を元に物理的な議論をする研究者にとっては,出自の保証書として重宝することは間違いない.
 かつてChandrasekharは,「Einstein方程式なんて解くのは簡単だ.Exact Solutionの本を見れば400を超える厳密解があるではないか」と豪語したという.冗談でそう言ったのかもしれないが,そのような域にまで達することができれば研究者の本望であろう.    2005/5/2

このページのトップへ戻る
須藤靖 一般相対論入門 人柄そのままの文章が楽しい
レベル=入門書(数式あり)
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   一般相対論入門
著者   須藤靖
書誌事項 日本評論社; 2005; 188 pages; ISBN: 4535784221
amazon.co.jp》 《bk1
解説    現在,日本で出版されている一般相対論の本格的な教科書としては,もっとも最新のものだ.著者が東京大学理学部物理学教室で行った講義をもとにしている本書は,まえがきに「将来,一般相対論を専門と「しない」人を念頭において,相対論の心を伝えることを目的とした」とあるように,入門書としての位置づけである.しかし,記載している内容は将来専門家を志す学生の期待にも十分耐えられるものだ.
 急ぎ足で特殊相対論を述べた後は,親切な解説で Einstein 方程式を導出.そして,Schwarzschild時空と宇宙モデルに絞って応用を詳しく解説している.章末問題は,宇宙背景輻射の分布関数の特殊相対性理論補正であったり,宇宙モデルによる宇宙年齢の表の穴埋めであったり,著者の専門や実用性を考えたオリジナル問題が多い.親切なことに解答も詳しい.本文140ページに解答が40ページである.
 この本を一番特徴づけているのは,著者の饒舌ぶりがそのまま文章になっているところだ. 一節だけを取り出して紹介すると,文脈がきちんと伝わらず著者に失礼かもしれないが,例えば
  • 「基底ベクトルの微分の「つけ」をまとめて成分に負わせたのが,「共変」微分だ」(p38)
  • 「常識的には,不可能であると思われる(そう思うべきである).しかし,奇跡的にもアインシュタインはそのような方程式を見つけてしまった」(p60)
  • 「手計算をあきらめてMathematicaのような代数計算プログラムに頼るのも有効である」(p85)
などなど. 噛み砕いた親切さや研究者の本音が垣間見られる語り口は,須藤氏の人柄そのものでもある.苦労話にしないところが読者を安心させる.本文で脱線したり,脚注で脱線したりと,読むものを飽きさせず,オリジナルのエピソードが内容をさらに印象深くしてくれる. 宇宙原理のところでは,コペルニクス原理の応用に関するGottの論文[Nature, 363 (1993) 315]紹介と自身の計算機購入に対する心構えの脱線付き.もちろん,私は該当論文を取り寄せた.
 簡単すぎる日本語の教科書が増えている中,きちんと書かれた楽しい本が出版されていることは,とても嬉しい.   2006/9/4

このページのトップへ戻る
Ray d'Inverno Introducing Einstein's Relativity 許せる範囲のマニアックさ
レベル=入門書(数式あり)
お薦め度=☆☆☆☆☆
書名   Introducing Einstein's Relativity
著者   Ray d'Inverno
書誌事項 Clarendon Press; 1992; 394 pages; ISBN: 0198596537
amazon.co.jp》 《amazon.com》 
解説    MTWの電話帳と同じ大きさでありながら,厚さは2分の一,各ページの3分の一は余白で,図も多い.紙質のちがいで重さは4分の一.字は大きくて字数は5分の一である(ちゃんと数えたわけではない).どんどん読み進めていけそうだ.
 それにも関わらず,扱うトピックは,特殊相対論・一般相対論の説明から,ブラックホール・重力波・宇宙論に及び,著者の専門からいって観測的なネタはほとんどないものの,厳密解ネタは異様に詳しい.入門書の位置づけでありながら,Penrose図を用いたブラックホール時空の説明や Kerrブラックホールの特異点,平面重力波の衝突解,Weyl テンソルのPetrov 分類は「もちろん」のこと,計量の同一性問題に関するKarlhedeの手法まで.こんなマイナーなトピックにまで手を延ばしている本は他にない.宇宙論の説明も結局は厳密解の話が中心だから、そのつもりで楽しむ心構えが必要だ.
 こういうスタイルになったのは,著者d'Inverno氏の研究の1つが代数計算ソフトウェアだからに違いない.アインシュタイン方程式の厳密解の分類や成分計算はお家芸なのである(イギリスではこの分野の人口が多い).著者のもう一つの専門は,一般相対論の数値シミュレーション(数値相対論)なのだが,普通の時間空間分解(3+1分解)で解くのではなく,特性曲線分解(2+2分解)も組み合わせるアプローチを古くから試みている.研究のスタンスとしては,私と同じ.学会では2回ほど(2週間ほど)しか共に過ごしていないが,フレンドリーで話の合う人である.自分の手がけている仕事を楽しそうに話せる人,いいよね.
 d'Inverno氏はジャズピアニストでもあり,CDも出している.学会で機会があるごとに,余興演奏を披露し,ついでに自分の自作カセット・CDを販売している.販売方法はいつも同じ.「定価は25ドル.だけど今日は20ドルでどお? えい15ドルだ.10ドルだ.もうこれ以上安く出来ないよ.5ドル」.儲けようとは思っていない.私も数巻持っているが,聞き流すには結構まともな Ray d'Inverno Band だ.
 というわけで,一般相対論のちょっと深入りしたトピックを広く浅く式付きで知りたい学生には,是非ともこの本を薦めたい.実は私の趣味・趣向とマッチして,長いこと私のお気に入り第1位である.翻訳する話,まわって来ないかな.   2006/9/5

このページのトップへ戻る
中村 卓史, 大橋 正健, 三尾 典克(編著) 重力波をとらえる―存在の証明から検出へ あまり知られていない良書
レベル=内容の詳しい専門書
お薦め度=☆☆☆☆
書名   重力波をとらえる―存在の証明から検出へ
著者   中村 卓史, 大橋 正健, 三尾 典克(編著)
書誌事項 京都大学学術出版会; 1998; 417 pages; ISBN: 4876980322
amazon.co.jp》 《bk1
解説    タイトルだけだと一般書のように思われがちだが,専門家向けのきちんとした教科書である.この欄を読まれている方には説明する必要がないかもしれないが,重力波は時空の歪みを光速で伝えるもので,一般相対性理論が予言する現象の1つである.現在,日本をはじめ世界各地で重力波の直接観測を目指して長基線のレーザ干渉計が稼働しており,宇宙空間での観測計画も進行中である.観測に成功した暁には,ノーベル賞はまちがいないと思われるが,重力波の発生頻度が定かではなく,それは明日かも知れないし,10年後かもしれない.
 この教科書は,90年代に日本で重力波観測を開始しようとしたときに,研究者間での基礎知識の共有という意味で「重力波アンテナ技術検討書ー干渉計ハンドブック」という260ページの冊子が作られたものを改訂し発売されているものだ.出自が「技術検討書」とあるだけに,内容の半分は「理論」,半分は「観測技術」である.物理学の専門家は常に理論物理家と実験物理家とに二分されてしまうが,本来はどちらにも精通していることが物理屋のはずである.その意味で本書は,理論指向の者にとっても,観測指向の者にとっても貴重でありがたい入門書である.
 内容を紹介すると,中村氏が序論から重力波の理論・予想される重力波源・及び本書が発行された98年時点までのシミュレーション研究のまとめを行っている.大橋氏と三尾氏は重力波検出の一般論から干渉計の原理を説明し,その他の要素技術・周辺技術として植田憲一・河邊径太・堀越源一・森脇成典・河島信樹・佐々木明の各氏が加筆(順は目次登場順),前田恵一氏が他の重力理論についての章を担当している.原理に立脚し,式を丁寧に解説した日本語の書として,このような形態で実用的にまとめられているのは貴重であり,重力波について研究を手がけるならば,定価8000円(税込みで8400円,だいぶ高いが)は必要な経費として迷ってはいけない.出版元が特殊なだけに,一般の本屋で見かけることは少ないが,大学院生ならば是非とも持っていたい一冊だ.出版からだいぶ経ってしまい,研究に使うためには最新の知識を収集する必要があるが,基幹部分は十二分に役に立つ.
 私自身は,付録部分の「アインシュタイン方程式の3+1分解」を専門にしているので少なくともここは精読した.本書の(a-21)式にはミスプリがあるので,利用者は注意されたい.全体の符号が逆である他,$+K_i^l K_{lj}$ の項が抜けている.   2007/5/6
  

このページのトップへ戻る

Last updated: 2007/5/6
Go to Einstein1905.info トップページ /

Copyright (c) 真貝寿明 Hisaaki Shinkai 2003-2006. All rights reserved.