【基礎物理】陽子/電子の質量比は120億年で若干変化

AIPのPhysics News 774が, 「陽子/電子の質量比は120億年で若干変化した」という論文 E. Reinhold et al, Phys. Rev. Lett. 96, 151101 (2006) を紹介している.

物理の基本定数の定数性を疑う話は,物理の一分野としてよくある話だが,これまで,確固たる実験事実として 示された例はない.2001年に「微細構造定数$\alpha$は,過去小さかった」という観測結果を示す論文が出版されて 話題になったが,(Phys. Rev. Lett. 87, 091301 (2001); 私のレビューあり),QSOの吸収線系(FeII, MgI, MgII)を用いるこの話は, 宇宙論モデルの不定性もあり,業界全体で了解されるほど市民権を得ていない.

今回の論文では,実験室で水素ガスに紫外線のレーザを当て,Lyman吸収光の詳細な波長を調べたものと, チリにある欧州南天文台が観測した水素ガス雲での吸収光の値を比較した.後者は,120億年前のQSOの光の 吸収を見ているので,時差120億年である.吸収波長のいくつかは,陽子/電子の質量比 $\mu=m_p / m_e $ に依存する. 現在値は1836倍だが,解析結果は,$\Delta \mu / \mu = (2.0 \pm 0.6) \times 10^{-5}$ すなわち,5万分の1ほど (0.002%ほど) 減少していることを3.5 $\sigma$ レベルで示しているという.

一方のデータが実験室であることと,確からしい吸収線のメカニズムを用いていることで,信憑性が高い.