今年のイグノーベル(Ig Nobel)賞の受賞者が発表され,9月30日に授賞式が行われた.普通の人々が絶句してしまう研究に真面目に取り組んでいる人を讃える賞であり,マサチューセッツ工科大学の有志のグループ「Annals of Improbable Research (AIR,疑わしき研究紀要)」発行団体が毎年この時期に発表している.(当サイト 2003/10/10 ニュース に解説あり.)今年で21回目となった.

今年は,「粘菌を使って鉄道網の最適な設計を行う実験」の研究で, 中垣俊之・公立はこだて未来大教授、小林亮・広島大教授ら9人が交通計画賞に選ばれ,朝日新聞で写真入りで報道された.2人は,2008年にも「粘菌に迷路を解く能力」でイグノーベル賞を受賞しており,2冠め.

今年の受賞者は以下の通り.経済学賞と化学賞は,貢献した企業への皮肉でもある.

The 2010 Ig Nobel Prize Winners

  • 技術賞
    無線操縦ヘリコプターを利用したクジラの鼻汁を採取する方法を極めたことに対して
    for perfecting a method to collect whale snot, using a remote-control helicopter.
    受賞者:Karina Acevedo-Whitehouse,Agnes Rocha-Gosselin (the Zoological Society of London, UK),Diane Gendron (Instituto Politecnico Nacional, Baja California Sur, Mexico)
  • 医学賞
    ジェットコースターに乗ることによるぜんそくの治療法の発見
    for discovering that symptoms of asthma can be treated with a roller-coaster ride.
    Simon Rietveld (University of Amsterdam, The Netherlands),Ilja van Beest (Tilburg University, The Netherlands)
  • 交通計画賞
    粘菌を使った鉄道網の最適な路線設計に対して
    for using slime mold to determine the optimal routes for railroad tracks.
    Toshiyuki Nakagaki, Atsushi Tero, Seiji Takagi, Tetsu Saigusa, Kentaro Ito, Kenji Yumiki, Ryo Kobayashi(日本)and Dan Bebber, Mark Fricker (UK) (中垣俊之、 手老篤史、 高木聖治、 三枝哲、 伊藤賢太郎、 弓木賢二、 小林亮)
  • 物理学賞
    冬の凍った小道では、靴の上から靴下をはくと、滑って転びにくくなることを示したことに対して
    for demonstrating that, on icy footpaths in wintertime, people slip and fall less often if they wear socks on the outside of their shoes.
    Lianne Parkin, Sheila Williams, Patricia Priest (University of Otago, New Zealand)
  • 平和賞
    呪いや罵りの言葉を吐くと痛みが取り除かれる、という広く信じられてきた信念を確認したことに対して
    for confirming the widely held belief that swearing relieves pain.
    Richard Stephens, John Atkins, Andrew Kingston (Keele University, UK)
  • 公衆衛生賞
    細菌が科学者たちのあごひげにしがみついていることを実験で証明したことに対して
    for determining by experiment that microbes cling to bearded scientists.
    Manuel Barbeito, Charles Mathews, and Larry Taylor(Industrial Health and Safety Office, Fort Detrick, Maryland, USA)
  • 経済学賞
    資金投資の全く新たな手法 - 世界経済(またはその一部)の得る金融取引上の利益を最大化し、リスクを最小化する - を創造し宣伝したことに対して
    for creating and promoting new ways to invest money -- ways that maximize financial gain and minimize financial risk for the world economy, or for a portion thereof.
    The executives and directors of Goldman Sachs, AIG, Lehman Brothers, Bear Stearns, Merrill Lynch, and Magnetar
  • 化学賞
    水と油は混ざらないという古くからの観念が成り立たないことを証明したことに対して
    for disproving the old belief that oil and water don't mix.
    Eric Adams of MIT, Scott Socolofsky of Texas A&M University, Stephen Masutani of the University of Hawaii, and BP [British Petroleum],
  • 経営学賞
    組織は、人を無作為に昇進させた場合に、より効率的になることを数学的に証明したことに対して
    for demonstrating mathematically that organizations would become more efficient if they promoted people at random.
    Alessandro Pluchino, Andrea Rapisarda, Cesare Garofalo (University of Catania, Italy)
  • 生物学賞
    フルーツコウモリのフェラチオを科学的に記録したことに対して
    for scientifically documenting fellatio in fruit bats.
    Libiao Zhang, Min Tan, Guangjian Zhu, Jianping Ye, Tiyu Hong, Shanyi Zhou, Shuyi Zhang (China), Gareth Jones (University of Bristol, UK)
イグノーベル賞も,ここ数年でずいぶんと市民権を得てきた.嬉しい.

当サイト 2003/10/10 ニュース  2003年の受賞者
当サイト 2004/10/04 ニュース  2004年の受賞者
当サイト 2006/10/06 ニュース  2006年の受賞者
当サイト 2007/10/06 ニュース  2007年の受賞者
当サイト 2009/10/06 ニュース  2009年の受賞者

なお,最近wikipediaには,全受賞者リストの和訳ができたようだ. 

20年前

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私が大学で卒業研究をしたとき,指導教官は着任したばかりで学生は2人だけ. 今思えばとても贅沢な環境だったのかもしれないが,何もない研究室で ドタバタしていたことばかりが思い出される.先週末は,ご着任20年を記念して, OB/OGに声をかけ,お祝いの会を開いた.(正確にいえば,現役の学生に場所や 企画をお願いしてアレンジしてもらった.もう少し正確にいえば,現役の学生に 企画を命じた,ともいえる.m=o=m)

20年前である1989年は,昭和が終わり平成が始まった年である. 天安門事件があり,ベルリンの壁が崩壊した. 任天堂がゲームボーイを発売し,女子高生コンクリート詰め殺人事件があった. 世の中,バブルの絶頂期で,金曜・木曜はタクシーがつかまらず, 花金(はなきん)とか花木(はなもく)と呼ばれた. カラヤンが死去し,紀子さまが婚約発表した. 携帯電話は存在せず,インターネットはCERNで誕生したばかりだった. 当時の私は下北沢で4畳半一間の風呂無しテレビ無し アパート暮らしを楽しんでいたが,いろいろ思い出すなあ.

私は理論物理を専攻したくて物理学科に入ったのだが,どの研究室に入るのかは なかなか決められなかった.配属先申込の直前に「宇宙物理研究室ができます」 とアナウンスされ,大いなる期待で教授の名前も顔も知らずに申し込みをした.その直後,図書館のパリティ誌で顔写真付きの指導教授の略歴紹介を見つけ,「この顔かあ」とへへっとしたのを憶えている.

大阪出身の若い教授のフランクな言動にしばしば戸惑う当時の私が見えてくる. 初めて買った研究室の備品はコーヒーメーカーで,「先生,生協で注文してきました!」と報告すれば 「値段交渉はしたのか?」ときかれてびっくりしたり,あとからコーヒーメーカーは校費で買えないことがわかって「領収書を書き替えてもらってこい」と言われたり,...もう時効ですからいいですよね.

20年経ち,人気のその研究室は約100名の出身者がいて,そのうち30名は博士の学位を取得した. 私も同期の相方の1人も含めて無事に研究者としての職を得ているのが10数名. 今回のパーティは約50名が集い,記念文集には30名が寄稿した. 文集の編集も印刷製本も大変だったけど,これで少しは恩返しができたか, と普段ちゃかしてばかりの反省をこめてマルとしたい.

教授は全く変わらずご活躍で,定年までまだ12年.定年祝いは誰が企画するのかな.

今年のイグノーベル(Ig Nobel)賞の受賞者が発表され,1日に授賞式が行われた.普通の人々が絶句してしまう研究に真面目に取り組んでいる人を讃える賞であり,マサチューセッツ工科大学の有志のグループ「Annals of Improbable Research (AIR,疑わしき研究紀要)」発行団体が毎年この時期に発表している.(当サイト 2003/10/10 ニュース に解説あり.)

今年は,「パンダのふんで生ごみ分解」の研究で, 北里大学の田口文章さんが生物学賞に選ばれ,朝日新聞で写真入りで報道された

今年の受賞者は以下の通り.

The 2009 Ig Nobel Prize Winners

  • 生物学賞
    パンダのふんで生ごみを分解すると90%以上軽くなったことの実証に対して
    for demonstrating that kitchen refuse can be reduced more than 90% in mass by using bacteria extracted from the feces of giant pandas.
    受賞者:Fumiaki Taguchi, Song Guofu, and Zhang Guanglei of Kitasato University Graduate School of Medical Sciences, Japan(田口文章ほか,北里医科大学のグループ)
  • 獣医学賞
    名前を付けられた牛は名無しの牛よりも乳の生産性がよいことの実証に対して
    for showing that cows who have names give more milk than cows that are nameless.
    受賞者:Catherine Douglas and Peter Rowlinson of Newcastle University, UK.
  • 平和賞
    空のビール瓶と中身の入った瓶のどちらが頭蓋骨を打ち砕くのに適しているかの実験的決定(結論は空の瓶の方だそうである)
    for determining -- by experiment -- whether it is better to be smashed over the head with a full bottle of beer or with an empty bottle.
    受賞者:Stephan Bolliger, Steffen Ross, Lars Oesterhelweg, Michael Thali and Beat Kneubuehl of the University of Bern, Switzerland
  • 経済学賞
    小規模銀行が大銀行に急速に拡大すること及びその逆を示したことに対して,また,同様のことが国家レベルでも発生することの実証に対して
    for demonstrating that tiny banks can be rapidly transformed into huge banks, and vice versa -- and for demonstrating that similar things can be done to an entire national economy.
    受賞者:The directors, executives, and auditors of four Icelandic banks -- Kaupthing Bank, Landsbanki, Glitnir Bank, and Central Bank of Iceland (アイスランドの4つの銀行の頭取)
  • 化学賞
    液体からダイヤモンドの合成ーー特にテキーラから
    for creating diamonds from liquid -- specifically from tequila.
    受賞者:Javier Morales, Miguel Apátiga, and Victor M. Castaño of Universidad Nacional Autónoma de México
  • 医学賞
    60年間毎日左手の関節だけを鳴らし続けて,関節を鳴らすことが関節炎の原因だとする説を検証する試みに対して(結論はその説の否定だそうである)
    for investigating a possible cause of arthritis of the fingers, by diligently cracking the knuckles of his left hand -- but never cracking the knuckles of his right hand -- every day for more than sixty years.
    受賞者:Donald L. Unger, of Thousand Oaks, California, USA
  • 物理学賞
    どうして妊婦は転びにくいのかの解析的研究に対して
    for analytically determining why pregnant women don't tip over.
    受賞者:Katherine K. Whitcome of the University of Cincinnati, USA, Daniel E. Lieberman of Harvard University, USA, and Liza J. Shapiro of the University of Texas, USA, (Nature, vol. 450, 1075-1078 (December 13, 2007)の論文で受賞)
  • 文学賞
    ポーランド語で運転免許証を意味するPrawo Jazdyという名前の人物に国中で一番多い50枚以上の交通違反切符を発行した功績に対して
    for writing and presenting more than fifty traffic tickets to the most frequent driving offender in the country -- Prawo Jazdy -- whose name in Polish means "Driving License".
    受賞者:Ireland's police service (An Garda Siochana) アイルランドの警察
  • 公衆衛生賞
    緊急時に本人用と隣人用の2つのガスマスクになるブラジャーの発明
    for inventing a brassiere that, in an emergency, can be quickly converted into a pair of face masks, one for the brassiere wearer and one to be given to some needy bystander.
    受賞者:Elena N. Bodnar, Raphael C. Lee, and Sandra Marijan of Chicago, Illinois, USA
  • 数学賞
    人々に毎日多くの数字を,とても小さな数から大きな数までを,紙幣に書かれた数字(価値)を1セント ($.01) から100兆ドルまで変化させることにより与えた功績に対して.
    for giving people a simple, everyday way to cope with a wide range of numbers -- from very small to very big -- by having his bank print bank notes with denominations ranging from one cent ($.01) to one hundred trillion dollars ($100,000,000,000,000).
    受賞者:Gideon Gono, governor of Zimbabwe's Reserve Bank (ジンバブエ準備銀行)
イグノーベル賞も,ここ数年でずいぶんと市民権を得てきた.嬉しい.

当サイト 2003/10/10 ニュース  2003年の受賞者
当サイト 2004/10/04 ニュース  2004年の受賞者
当サイト 2006/10/06 ニュース  2006年の受賞者
当サイト 2007/10/06 ニュース  2007年の受賞者

老大学教授と女子学生との恋という映画は,実はジャンルを成すほどあるのではないか,と 気がついた.

最近,レンタルビデオで新作とされている「私の教え子」(原題Suden vuosi, 2007フィンランド)は, 劇場未公開の映画だったようだ. 女子学生役が Krista Kosonen(撮影時24歳),文学を教える老教授役が Kari Heiskanen. 妻子ある教授が,自分より賢い学生とプラトニック(が貫けない..)という話だが, 学生に持病あり,という設定がやや卑怯かな. 教授の家族の描き方もちょっと薄っぺら. 背が高くて髪が長い女子学生を楽しむ映画といえる.

美しき運命の傷痕」(原題L'enfer, 2005仏) は,仏映画らしく,見終わってもあまりハッピーにならない, Emmanuelle Béart, Karin Viard, Marie Gillainの三姉妹の話. 話が3つパラレルに進むので何がどう繋がっているのか,なかなか分からないストーリー展開. 女子学生役が Marie Gillain(撮影時30歳),哲学を教える老教授役が Jacques Perrin. 話が断片的で,なぜここまで Marie Gillain が妻子ある教授を追いかけるのかが全く不明. Marie Gillain は,「星降る夜のリストランテ」(原題La cena, 1998伊) でも,哲学教授と不倫中の女子大生を演じている.でも,この組み合わせ,わかる気がする.

話題になった「エレジー」(原題Elegy, 2008米)は, 女子学生役が Penélope Cruz(撮影時34歳),文学を教える老教授役が Ben Kingsley. こちらは,タイトルどおりに,エロ爺なのだが, 中盤の Penélope Cruz が美しかった. Dennis Hopperも久しぶり.Patricia Clarksonも頑張りました. てっきり男の夢を描いた作品かと思ったのだが,監督は女性だったようだ.

世の中,大学の教員が,こんなおいしい職だと思われているとしたら,悔しい.




(8月12日の話です)

前日まで低気圧だった台風9号が,局地的に大雨を降らせ,8月9日夜, 兵庫県佐用町が大きな被害を受けた. 先月,お世話になった西はりま天文台の所在地であり,知りあいも多い. ニュースでは死亡・行方不明者は30名近い. 10日には「天文台は二つある登山道がいずれも土砂崩れで通行不可能になって孤立した」 というメールが入ったものの,その後一向に安否がわからない.

何か出来ることはないか,と考えた末,当初の予定がなくなった12日, 佐用町に災害ボランティアに行くことにした. 初めは,天文台関係で何か手伝えるかと思って台長の石田さんに前日メールしたが, 石田さんより,佐用町に行く途中で「ボランティアセンターへ連絡を」 との返信メールが届き,その足で一般の災害ボランティアに協力することになった.

たどり着いた佐用町の中心部は,もっとも被害が大きかったところで,町中が 土砂に埋もれていた.町役場周辺の商店街はすべて床上浸水になったそうで, すべてのお店が1階のものを道に出してゴミ回収車待ち状態だった. 慣れてしまうまでは臭いもひどい.多くの人が必死で家具の搬出や泥かきをしている.

佐用町災害ボランティアセンターの電話0790-78-0830は,なかなかつながらなかったが, 場所が南光福祉センターと聞き出した. 地元の人も知らない千種川沿いのセンターにたどり着くまで苦労したが, 場所は,53号線の野球場「若あゆランド」の所にあった.

ボランティアの受け付けを済ませると,救援を求めている家庭へ,2人以上のグループで, すぐ派遣されることになる. 私とペアになったのは神戸から来たという若い社会人の山本君だった. 携帯を持っている人がリーダーとなるルールになっていて,私のPHSはずっと圏外だったので, 山本君がリーダーになる.私の車で商店街のヘルプに向かう.医療関係者 以外は,力仕事が多いようだ.今なら女性の方なら,話し相手,とか,買い出し,という仕事も あるかもしれない.

あちこち道路で土砂かきしているので,町中渋滞している.特に, 佐用坂の佐用駅方面は大渋滞だったので,南光から佐用町中心部へは 播磨徳久ー久崎ー上月経由で入るよう勧められた.川岸はところどころ崩壊し, 道路もときどきシャベルカーが作業をしている.川に潜って行方不明者探査 をしている場面も見た. 上月の町の被害もひどかった.

たどり着いた商店で,家具の搬出,清掃,泥かきなどを行った. 電気はすぐに復活したけど,水道はまだ,という状態らしい. 道路にはたくさんの廃棄物が積み上げられているが,これでもすでに3回,回収車が 持っていった後なのだという.

12日の時点では,ボランティアセンターは南光にしかなくて, バスでたどり着いたボランティアの人の足がなくてたいへんだったが, 14日には町の中心の佐用高校にボランティアセンターが移動したそうだ. 週末には神戸からボランティアバスが運行され,1000人以上のボランティアが駆けつけたという. ボランティアには高速道路料金免除の制度もできたようだ.

何をやってもめちゃくちゃ感謝された.いい汗を流したと思う.

佐用町の方々に改めてお見舞い申し上げます.

(7月30日の話です)

大学院生の勉強会である 「天文天体物理若手の会夏の学校」に呼ばれ, 相対論のセッションで1時間の話をした. 群馬の草津温泉で,300人以上の大学院生が集合しても,まだ貸し切りではないという大きな宿である. 最近の若手の合宿は,こんな豪華な所でやるのかー,と感心しながら,1泊2日だけお邪魔した.

何の話でも良い,という依頼だった. 一方で,できるだけコアな相対論の話をとのリクエストもあったそうだ. 今年のセッションのテーマは『誉れ高き「非常識」』というものらしい. この企画の元に何故私が招待されたのかを考えると非常に複雑な気持ちになる. 私が非常識な人間と思われているのかもしれないが, それは良い意味に解釈して,話をお引受けした.

単なる研究テーマの1つのレビューでは, 聞いている人もオモシロクナイだろう. レビューというのは,ある程度出来上がった話をまとめるものであり, 研究面では「ひとつの区切り」である. 「勉強する」という意味ではありがたいが, これから「研究する」人にとってはなかなかそう簡単に テーマを見つける糸口になりにくいのも確かだ.

そう考えて,若手を前にして,研究テーマはそもそもどうやって見つけたら良いのか, ということを共に考えてみたいと思った. 結論から言うと,そんなことは私が知りたい位で,答えがあったら誰にも言わ ずに一人占めしたいものである.(いいかげんな結論で申し訳ない).

伝えたかったのは,

  • 修士論文で指導教員が与えてくれるテーマは,パターン化された練習問題レベルであること.
  • 自分の到達したい研究を大きく考えること
  • 小さな仕事と大きな仕事を区別すること
  • 自分が本当に研究を楽しめているのかどうか,一度 立ち止まって考えて欲しいこと
である. 当日プログラムを見て,参加者の半数が 修士1年ということもわかり,ちょっとマニアックなネタが多かったかな,とも 反省. どこまで受け止めてもらえたかわからないが, 若い大学院生に一言でも記憶に残ってもらえていたら嬉しい.

「相対論研究のテーマ探し 何が常識・非常識?」(pdf, 10MB)

2009年7月22日,小笠原近海で,皆既日食を見た.
参加したのは,客船「ふじ丸」を1週間チャーターした,兵庫県立大の皆既日食アカデミックツーリズムである. 小学生の頃より一度は見たいと思っていながら36歳の誕生日を7回も迎えてしまったが, 幸いにも,絶好のロケーションで初めから最後まで味わうことができた.

この感動を残したいと思いつつ,もう3週間も過ぎてしまった(そもそもこのブログも2年近く休止状態だが..). ふと検索すると,ふじ丸に乗船した多くの方のブログやYoutubeへのビデオ投稿が手に入る. 知らぬ間にツマも 日食体験記をアップしているし,デッキで隣にいた 福江氏も毎回の食事の写真付レポートを掲載している.日食に関するサイトを 運営している 佐山氏もふじ丸レポートを掲載されている. 皆さんの文章力には及びそうもないが,書いておかないと夏休みが終わらない気がして,私もようやくキーボードを たたくことにした.

なお,私は, スタッフ側だったこともあり,写真もビデオも撮る余裕がなかったので,文章だけである.素晴らしい写真は, スタッフでもきちんとカメラを持って来られていた方がいて,例えば, 大西氏大鐘氏畑田氏井垣氏 のページから写真を見ることができる.いずれ, 米田氏戸次氏 もアップされると思われるので,期待したい.

参加するまで

昨年の春に,自宅に送られてきた西はりま天文台発行の 機関紙「宇宙Now」誌に,皆既日食ツアーの予告とボランティアスタッフ募集の記事(pdf)が掲載されているのを発見した. 即日,主宰の黒田武彦氏にメールで応募した.(ちなみに,私は,天文台の友の会のメンバーではないのだが,以前,天文講演会をさせていただいた関係で,「宇宙Now」誌が送付されていたのだ). 皆既日食があるのは知っていて,まだまだ先と思っていたところだが,これほどよい条件のツアーはなかろう.何しろ船で晴れ間を目指して動けるのだ.それに, 大学を1週間も休むには,スタッフの肩書きが必要だとも考えられ, 以前の講演会のお礼+英語も可+家族3人も乗船というアピールが効いてか, 黒田氏には面識がなかったのにも関わらずスタッフに採用していただいた.

後から聞いたが,このツアーは黒田氏が6年も前から企画されていて,ふじ丸にも日食ツアーのオファーが10以上あったという. 兵庫県のツアーとして,兵庫県立大学を動かし,実現にこじつけたそうだ.彼の熱意とパワーには恐れ入る. 昨年5月に,ツアーを大学が発表し予約受付を開始したところ,初日で500人の定員を超え,キャンセル待ちになったそうである.

実は今年になって,インフルエンザが流行し,関西地区の学校は5月に1週間閉鎖したところが多かった. 学校関係者は,このため夏休みに入るのが遅れたところが多く,そのために日食ツアーのキャンセルも多く発生したという. 当然,振り替えで定員は充足されていたが,私自身も大学の授業期間が伸びて 「学会発表でもないのに,なんで休講にするのか」という問題が発生し,学部長直訴状でなんとか乗りきったのだった. それにしても前倒し補講6コマは実に厳しかったし,ツアー翌週に若手夏の学校で講演を頼まれていたので その準備もままならず,ツアーには結構ボロボロな状態で辿り着いたのだった.

スタッフの仕事

ツアー前の6月に,1回だけ,スタッフが集合する打ち合わせがあった.そこで,はじめて黒田さんに自己紹介する. 私の他のスタッフの方はほとんど西はりま天文台友の会の方で,お互い知りあいのようだった. 長野高専の大西さんと米田さんのカメラのレンズに関する会話は,私にはまるで宇宙語のようにも聞こえた. ただ,皆さん 個性が強そうで,面白くなりそうな予感は多々あって,実際そうなのだった.

打ち合わせでは,1日かけて,スタッフの動きや,ツアー全体の行動計画などを確認したり提案したりした. スタッフは,ツアー中の各種イベントを分担したり,日食観測中のデッキの担当,来賓の担当など, 自由時間がない位忙しそうだ.そして,実際,毎夜の打ち合わせやスタッフ同士の食事や飲み会を含めると, まるまる1週間,寝食を共にすることになるのだった.

私は,理研の望月さんと,サイエンスカフェの進行を,ということだったが,カフェは中止になっていて,代わりに サイエンストークの司会進行となっていた.自分から喋りたい人間は多数乗るはずだ, という黒田さんの予想で, サイエンストークの他にもフリートークが設定され,どちらも 誰がトークするのかは未定のままツアー初日を迎えることとなった. 実際,フリートークは出港後のアナウンスでも講演希望者が殺到した. サイエンストークで誰が話すのかはふじ丸が出港してから黒田さんが調整され,その場で,いきなり私も望月さんも30分の時間を与えられたので,2人とも トークの準備を船の中で行うことになるのだった.

サイエンストーク

ツアー中に私と望月さんとで担当したサイエンストークの内容はいつも前日に調整されていた. おそらく,オフィシャルな記録は残っていないと思うので, ここに記録として書き出しておく.

時間と場所講演者とタイトル
20日(月)
21:30ー22:00
1Fシアター
森本雅樹さん(タイトル未定,ダークマターの話?)
明珍宋理さん(タイトル未定,火箸風鈴のお話)
21日(火)
15:30ー16:30
1Fシアター
望月優子さん「宇宙と生命とのつながり」
       ー生命と元素、星、宇宙のリズムー
寮美千子さん「黒い太陽のお話 日食の科学と神話」
22日(水)
16:00ー17:00
1Fシアター
石塚睦さん    「ペルーにおける天文学の建設」
ホセ・イシツカさん ーー52年間のお話ーー
畑田佳江さん 日食観測の感想 
山崎伸子さん 日食観測の感想
(畑田さんと山崎さん,7月22日誕生日おめでとうございます)
23日(木)
21:30ー22:30
2Fパシフィックホール
真貝寿明  「タイムマシンはできるのか?」
       相対性理論入門(pdf, 9MB)
柴田鉄治さん「南極から人類の未来を考える」
24日(金)
16:00ー17:00
2Fパシフィックホール
海部宣男さん「望遠鏡400年が拓いた宇宙」
秋山晋一さん「世界天文年2009ガリレオ望遠鏡の
       精密復元プロジェクト」
25日(土)
8:30ー9:30
2Fパシフィックホール
国枝すみれさん 「新聞記者の日常」
福江純さん   「ちょうどいい宇宙」
ご講演いただいた方,ご協力ありがとうございました.そして毎回,100人前後のお客さんに起こしいただき,どうもありがとうございました. つたない司会進行で失礼いたしました.

ふじ丸航海

ふじ丸は7月20日午後3時に姫路港から出港する. スタッフは前日の夜8時に乗り込んだ.これまで豪華大型客船に全く縁の無かった私は,はじめ,高さ8階のふじ丸を大きなビル,と勘違いしてしまう.こんな大きな乗り物が動くはずない,とまで思えてしまう大きさだ. スタッフは打ち合わせや船内の確認作業などを行う.この場ではじめて戸次氏デザインの黄色Tシャツが披露され,各自に配布された.乗客は540名位,我々スタッフは(イベントスタッフ含めて)30名位,そして船内従業員は130名程だという. 19日の夜の姫路は雷鳴が響くほどの大荒れで,外を歩くだけで蒸し暑い.日本はまだまだ梅雨真っ盛りなのだった. とりあえず,スタッフ3人の我々の客室(with 芝滝氏+畑田氏)では2時までビールで乾杯.

20日午前中もいろいろと準備に追われた.インターネットが一週間使えなくなるので, PHSを通して必要な情報をいろいろとダウンロードしたり, ピアニストの福田さんの持ち込んだチェンバロを搬入したり...と作業に追われるうちに, 皆さんの乗船が始まり,いつの間にか3時になって, 姫路港開港50年記念の行事として盛大に紙テープの舞う中,ふじ丸は出港した. このときはちょうど晴れていた.出港後,すぐに参加者全員がパシフィックホールに集合し開講式. そして,夕方はふじ丸主催のウェルカム立食パーティ,海部氏の世界天文年の話に,サイエンストーク, コンサートなど行事が始まった.夜には船は黒潮を横切りはじめ,大きく揺れはじめる.外は雨で, 観望会は中止となった.夜には豪華な夜食も提供された.スタッフは夜11時半に集合し報告会. スタッフは(船側の計らいにより)ビールも飲み放題なのだが,飲む暇はほとんどなかった.

21日は,丸一日,南下をつづける日である.蒸し暑い中でスタッフは朝6時から各デッキにテープを貼るなどの作業を開始. 外は風が強く,大きく揺れる船の中で午前2コマ・午後2コマの大学公開講座が行われた. トップバッターの黒田氏は,PCトラブルで2番手になったが,6分39秒384の今世紀最大の皆既食を最大皆既地で観測する,と宣言.兵庫県立大としてすでに「日食を観測しました」という修了証を印刷してしまっているので,見ないわけにはいかないのである.日食を一度見ると次の日食も追いかけてしまう日食病の話や,はじめのダイヤモンドリングを見ると目が暗さに慣れないので注意するように,などと観測上の注意も.

昼前には実際に各デッキに分かれて,日食観測の予行練習を行う予定だったが,風が強かったためにデッキの下見だけになった.ホールからデッキに出る直前, 相変わらず絶好調の森本おじさんが「日食は明日ですか明後日ですか」の質問をして,拍手喝采. 船のデッキは6フロアに分かれ,各自が90cm x 150 cmのスペースを確保できるように予定されていた.スタッフとしては,適当に人がばらけてくれることが第一の心配事だった. 私が担当する200人収容の6階スポーツデッキが最大の受け入れ先 となるはずだったが,なんとかなりそうだ,という感触を得た.

船が受信した天気図では小笠原周辺に小さな高気圧がやっと発生, 船長から日食時には東南東に5ノットの速さで進むだろうことが伝えられた. 誰もが翌日の晴天を祈って夕方から夜のイベントを過ごした. 夜にはトカラに向かうと思われていた横浜発の「ぱしふぃっく・びいなす」(NHKや天文学会が乗船)がふじ丸の左舷を横切って 追い越してゆくという無謀航海をしたため,黒田艦長は敵船と認定した. 夜の観望会では雲間から星が時折見える. 私は,デッキでの日食観測に備えて,指導の予習に没頭する.数冊持ち込んだ本を必死で読んだ.

皆既日食

いよいよ22日.朝4時50分に日の出を見た人は,グリーンフラッシュが撮れた,という. (神戸新聞 7月30日 版に写真が掲載されていた). その噂が一気に広まって,その後,多くの人が甲板で日の出と日の入りのシャッターチャンスを狙うことになった. 朝6時には北硫黄島を通過. カツオドリが船に沿って飛んでいる.船に驚いて飛び上がるトビウオを狙っているのだそうだ. 少し雲はあるもののほとんど快晴.なんとラッキーなことか! 朝8時半のパシフィックホールの集合は, 黒田さんの「みなさん,あけましておめでとうございます」の挨拶で始まった. 9時にデッキへ移動し,場所取りの混乱もなく,嬉しい炎天下の中, 日食の開始を待つことになった.海の色が青くて美しい.周囲には飛鳥IIと,イタリアからの客船コスタ・クラシカもいた. 部分日食が始まる10時頃から, 黒田さんが主マイクを担当され,時折冗談を交えた解説が楽しく行き渡る.

日食グラスを通して部分日食が次第に拡大してゆくのを見たり, ピンホールを通して見られる太陽の光が部分日食の 形をそのまま映し出しているのをあちこちで楽しむ.指の間から漏れる光も, 麦わら帽子の影も,だんだんと部分日食を 表すようになる.スタッフの畑田さんは自作のフィルタ付望遠鏡を披露したり,時折皆で鏡で壁に太陽を映すイベントも 企画してくれた. すぐには気付かなかったが,周囲はだんだんとうす暗くなり,気温も下がっていった. デッキ上にいた私の家族の隣には福江家族がおられたが,準備万端で,温度計も持っておられた.はじめ43度だった 甲板の気温は皆既時に28度前後まで下がったそうである.皆が汗も出ない涼しさに気付いたのは皆既直前に近かった.

北緯25度にいるため,太陽は天頂近い85度の高さである.皆既の頃はほぼ真上.甲板ではみな持ち込んだシートに, 南側に足を揃えて寝ころんだ. 皆既10分前頃,西側45度に金星が見えはじめる.皆既数分前には,西からやって来るはずの闇(「本影錐」)を見ようと時折 顔を西に向けるが,よくわからない.ダイヤモンドリングを見逃すまいと,やはり顔を上へ向ける. (本影錐はビデオでないと確認が難しいらしい). カメラやビデオで撮る人は,皆既1分前にフィルタを外す作業があった.「1分前になったら教えてください」と隣の人から 依頼もあったが,船の正確な位置がわからないし,時計も正確ではない.適当に「1分前ですよー」と言ってしまったが合っていた. 私自身はビデオに手製のフィルタを付けていたが,そのレンズが外れないというトラブル発生. 仕方なく,そのままビデオを回し続けることにして,目では見逃すまいと太陽に目を向ける.

第2接触と言われる皆既開始のダイヤモンドリング.本当に数秒前まで日食グラスが必要なくらい眩しく, ダイヤモンドのように見えたのは1秒か2秒.すっぽりと月が太陽を包み込む瞬間には,太陽の赤い輪郭が見えた. これがプロミネンスか!と声を上げたが,後から説明を受けるとプロミネンスは赤い小さな炎で肉眼では確認は 難しいらしい.私が見たのは「ベイリービーズ」(天文学者Bailyにちなむ)と呼ばれるものだったらしい. 甲板では歓声があがり,拍手もおきた.最後の閃光を裸眼で見たので,ちょっと目がくらみ,やがて暗さに慣れてくると, 太陽のコロナがしっかりと見え,そして, 東側15度程に水星が見えた.いままで見たことのない水星と出会うのが私の目的の1つだったから感激である. 娘が新しいデジカメで,しっかりと水星をビデオ撮影していた. 皆既中は双眼鏡でも太陽を見ることができる.実に不思議な体験だ. 南にシリウスも見えた.オリオン座も探したが,1等星がわずかに見える程度.海上なので散乱光が多く結構明るかった,というのが 後からなされた説明である.

ふと身を起こしてみると,周囲が360度,美しい夕焼けである.「みなさーん,周りがきれいな夕焼けですよー」と 思わず叫ぶ.周りの人も,その言いようのない美しい色合いにどよめきが. 日食後に参加者のお一人から「どうして周囲が赤い空になるのか」と 質問されて,即座に(レイリー散乱で)「空気中を長く光が通過すると朝焼けや夕焼けのように 赤い色に見えるのです」と説明して納得してもらえたが, 後から考えると皆既帯の幅は中心から100km以上あり,船の上からみえる水平線はたかだか数10kmだろうから,夕焼けの高さは もっと低いはずかとも思えた.散乱を繰り返した光が水平面から徐々に闇になるグラデーションをさらに演出していた美しさなのだろう.

昼なのにこの暗さは不気味でもある.日食の予報を行うことが歴史上どれほど重大な任務だったのか,ようやく分かった気がした. それにしても,分秒違わず日食を予報できるニュートン力学はなんて偉大なんだろう,と考えているうちに,「そろそろダイヤモンドリングになりますから,双眼鏡は止めて,日食グラスを準備してくださーい」と叫ぶ時間になった.あっと言う間の6分間である.

皆既終了時(第3接触)のダイヤモンドリングは静かに始まり,西の上側から一瞬の閃光を見せた. 目が暗闇に慣れているため,その一瞬がとても美しかった.回しっぱなしで放っておいた私のビデオでも偶然 その瞬間が(ピンボケで)映っていたが,黒かった目玉焼きがわずかに1-2秒たつと,画面が光で満ちあふれている. カメラ撮影のプロでも,この一瞬の輝きが撮れるかどうかは運次第だそうで,ひたすら連写を続ける音が響いた. ついに見た.感動の日食である.周りから「見ちゃったねー」と声が上がり,みな呆然としていると, 黒田さんがマイクで「シャドーバンドです.」ビデオを再生しても 映っていなかったが,ダイヤモンドリングから30秒後からおよそ12-3秒間,甲板にさざ波が走っているのが見えた. しばらくして「今見えているのはシャドーバンドではなく船の煙です」というアナウンスで笑いがおき,「全部成功です!」 の黒田節に一同拍手喝采となった.ダイヤモンドリングから1分経っていた.

美しかった.その一言以上,形容できない日食だった. 世にいう「日食ハンター」として世界中飛び回る人たちの気持ちもはじめて理解できた. 日食は美しくもあるが,寒くて暗くて不気味でもあった. その一瞬に居合わせることが,宇宙との一体感を..などとまで言うつもりはないけど, やはり写真で見るのと実際にその場にいるのとではまったく違う.一生に何度体験できるか分からない,貴重な貴重な瞬間であった.

ふじ丸航海(日食の後)

日食後,ふじ丸は小笠原に一日寄港し,そして二日かけて雨の中を姫路に戻ったのだが,実は私自身も動き回っていたこともあり, 記憶が走馬灯のようである.

日食の撮影記録披露会があって,皆さんの力作を見られたこと,...
小笠原で日食記念のガムを買い占めたこと,,...
めちゃくちゃなスコールに出会ったこと,...
私のサイエンストークで数式が登場した途端に聞くのをあきらめたと後から複数の人に言われてショックだったこと,...
ちょっとだけ顔を出せたマジックやピアノ演奏会,琵琶演奏,...
都合がつかなかったお茶席や操舵室見学会,...
子供向けイベントの予習をしていたスタッフの船田氏が,畑田ジュニアの注目をなかなか得られなかったこと,...
Tシャツコンテストでの製作者の女性の衝撃スピーチ 「私を触ってください」,...
最後の夜はスタッフの打ち上げで学生時代に戻ったように朝の4時まで騒いだこと,...

とても書ききれる自信がないので,この駄文も閉じることにするが, なにより嬉しかったのは,志を同じにしてツアーを成功させた人, ツアーに参加できたことを素直に喜び楽しみ感謝してくださった多くの人との出会いであった.

そして,今回,ボランティアとしての参加であったけど, あちこちの公共天文台でボランティアとして働いている多くの方がいることも知った. 私にも何かできることをしなくては,...という気にさせる多くの方との出会いを大切にしたいし, 今後も続けたいと考えている.

高エネルギー加速器研究機構KEKリニアコライダー計画推進室が 届けてくれている「ILC通信」.今回届いた内容は,子供たちに科学を啓蒙する KEKのキャラクター カソクキッズ!! ウエブでマンガを毎月連載しているそうです.

そういえば,東北大学の サイエンス・エンジェル は,3年目も頑張って続いているようですね.東北大の人に聞いたら答えるの嫌がっていたけど.

7月22日に,トカラ列島から硫黄島にかけて,日本では46年ぶりに皆既日食が見られる.詳しい情報は,国立天文台のページや,そこからリンクされている情報ページに譲るとして,天文教育業界でも毎日メーリングリストで日食情報が交換されている.

そこで話題になった, 「完全ガイド 皆既日食」(武部 俊一,朝日新聞出版)という本が,日食を追いかける一個人の記録として,実によく書かれているので,ここで紹介しておきたい.

筆者は,新聞記者だが,この18年間に10回も皆既日食を追いかけた「日食ハンター」である.冒頭で「宇宙の中にいる自分をこれほど実感させてくれるものはない」「天と地と人の一体感」と日食を定義し,今回の日食の説明や筆者の体験した日食記録のほかに

  • 報道の中の日食
  • 科学の中の日食
  • 切手の中の日食
  • 日本史の中の日食
  • 世界史の中の日食
  • 文学の中の日食
  • 映画の中の日食
  • 皆既日食がなくなる日
と章が続く.いずれも個人の調査・収集としては,出来すぎていて感服する.

例えば日本史の章では,日本書紀に出てくる天照大神(太陽の女神)が岩屋に閉じこもってしまい,困った神々が岩屋の前で祭りを催した,というくだりを日食とみなせば,158年か248年,454年か522年か,といった斎藤国治の研究成果を紹介している.

最後の章では,月の軌道がだんだんと地球から遠ざかることによって,6億1600万年後には皆既日食がなくなること,次の1000年間に子孫が皆既日食を見やすくするには九州に住み着くのがよい話などが書かれている.

(冗談ではなく)とても役立つ話が満載だ.

最近,政府レベルで,UFO発言が続いているようだ.

ことの発端は,山根隆治参院議員(民主党)が「UFOについての認識」を質問主意書でただしていたのに対し,政府が18日の閣議で「地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体(UFO)の存在を確認していない」と答弁書を決定したことのようだ.答弁書には, 「特段の情報収集,外国との情報交換,研究などは行っていない」 「我が国に飛来した場合の対応についても特段の検討を行っていない」等と書かれていると報道されている. (読売新聞 2007/12/18, 朝日新聞 2007/12/18) 宇宙開発を所管するために回答作成を担当した文部科学省は「UFOに関する答弁書は初めて」とコメントし, 航空自衛隊は「鳥など航空機以外の物体を発見することはあるが,UFOを発見した事例は承知していない」と答えた.

ごく当たり前の回答であり,このへんで終わらせておけば,民主党議員の気まぐれな質問書という一過性の話題で済み,もっと大事な問題に取り掛かれたであろうに,その後の閣僚レベルのコメントがいけない.

  • 町村官房長官は「政府の公式答弁は極めて紋切り型。私は個人的にはこういうものは絶対いると思っている」と反論。「そうじゃないと,ナスカ(南米ペルー)のああいうの(地上絵),説明できないでしょ」と述べた。 (朝日新聞 2007/12/18
  • 石破防衛相は自ら話題を切り出して,「存在しないと断定できる根拠がない。未確認飛行物体を操る生命体が存在しないと断定しうる根拠はない」と6分間も持論を展開.(日刊スポーツ 2007/12/21
  • 渡海文科相は「あるんじゃないか。あったら楽しい。地球の脅威にならない限り、この種の話はあっていい」「今のところ、政府としてUFO研究は考えていないが、専門家に会ったらいろいろ聞いてみたい」 (読売新聞 2007/12/21
防衛大臣の「対処を考える」という発言を受けて,航空自衛隊トップの航空幕僚長は、「これから検討することになるのではないか」との見方を示したそうだ。 (朝日新聞 2007/12/21

そもそも未確認飛行物体なのだから,確認のしようがない問題だ.その意味で,福田首相の「私は,まだ確認していません」というコメントは正しい. 個人的に宇宙人と結びつけるのは自由であるが, 政府高官が発言すれば面白おかしく報道され,科学とSFの混同を助長させることにもなってしまう.

不祥事続出の防衛省内からは「現実逃避するにはもってこいの話題だ」と歓迎している声もあるようだ. 「現実には、ほかに考えなくてはいけない問題がいっぱいある」という自衛隊統合幕僚長のコメント(産経新聞 2007/12/22)も正しい.

米軍司令官の「昨日,娘にも同じ質問をされたのだが...,そんな報告は私は受けていない」 程度のコメント( 本サイト 1998/6/30)で終わって欲しかった話題である.