【基礎物理】FermiLabでHiggs粒子?

PhysicsWeb 2007/3/6の記事より.

素粒子の標準理論(Standard Model)は,電磁力と弱い力を統一して説明するが,低エネルギー領域では粒子の質量がゼロになることを予言するので,明らかに適用外となる.そこで電弱理論の対称性を破るメカニズムとしてヒッグス粒子(Higgs boson)の存在が仮定されており,ヒッグスの質量は 100 GeV から 1 TeV と想定されている.2007年11月にスイスCERNの14 TeV 大型ハドロンコライダーLarge Hadron Colliderが稼働を始めれば,ヒッグス粒子が発見されるものと期待されている.

このような現状において,昨年のアメリカFermilabでのHyperCP実験の解析結果から,ヒッグスの1種と考えられる質量214.3 MeVの新粒子が3つ確認された,という論文( Phys. Rev. Lett. 98 081802)が掲載された.この実験は陽子ビームを用いるもので,シグマ+粒子が陽子と中間子/反中間子ペアに崩壊する現象から,新粒子「HyperCP particle」の存在が示唆されるという.ただし,通常,3例のみでは新粒子の発見とは確定しない.

新粒子「HyperCP particle」は,現在の標準理論のHiggsとしては質量が軽すぎ,また反応確率も低い.許される理論は,超対称性理論(SUSY, supersymmetric)の一つである "next-to-minimal supersymmetric standard model" (NMSSM,最小超対称標準モデルにさらにgauge singletを加えたモデル)だそうだ. NMSSMでは7つのHiggs粒子が許され,「HyperCP particle」はそのうちの最小質量のものとして説明可能であるという.

ちなみに,NMSSMより好まれているMSSMモデルでは,5つのHiggs粒子が考えられる. PhysicsWeb では,「ConwayとDorigoが今年の初めに Fermilabのデータに見られる160-GeV周辺のデータからMSSMモデルのHiggs発見の可能性を示唆した」と記しているが, Dorigoのホームページでは,あくまでも 冷静に標準理論のHiggs探しの立場を貫いている.

PhysicsWeb 2007/3/6 Fermilab data hint at Higgs boson
He, Tandean, & Valencia, Phys. Rev. Lett. 98, 081802 (2007)