【受賞報道】2009年ノーベル賞

今年度のノーベル賞自然科学3賞の受賞者が発表された.
  • 2009年ノーベル生理学医学賞は「染色体,細胞の老化を解明」米3氏に
    • Elizabeth H. Blackburn
      (エリザベス・ブラックバーン氏,米カリフォルニア大,60歳)
    • Carol W. Greider
      (キャロル・グライダー氏,米ジョンズホプキンス大,48歳)
    • Jack W. Szostak
      (ジャック・ショスタク氏,米ハーバード大,56歳)
     授賞理由は「染色体の末端にある「テロメア」とそれを作る酵素(テロメラーゼ)の機能の発見 (for the discovery of how chromosomes are protected by telomeres and the enzyme telomerase)」

     テロメアは,ヒトを含む真核生物の染色体にあり,染色体を安定させ保護する役割をもつ. 細胞が分裂するたびに染色体が短くなることが、以前から予想されており, 細胞の老化と関連すると見られていたが,詳しい仕組みは不明だった.
     ブラックバーン氏は,単細胞の繊毛虫「テトラヒメナ」のDNAを解析し,テロメアの塩基配列を特定して1980年に発表. さらにショスタク氏とパン酵母の細胞内にテロメアを入れることにより,染色体が老化から守られることを確認した. ブラックバーン氏は,さらにグライダー氏と1984年に短くなったテロメアを伸ばす酵素(細胞の老化を防ぐ働きをする酵素) を見つけ「テロメラーゼ」と名付けた.
     老化が早く進む病気の人はテロメアが短いなど,謎の多い人間の老化現象の解明が進みつつある. また最近では,がん細胞では酵素テロメラーゼが活発に働いて無限に増殖させていることが分かっており,新たな抗がん剤開発研究にもつながっている.
     受賞者の発表後,ロシアのメディアは,染色体のテロメア構造の解明はロシアの研究者アレクセイ・オロブニコフ氏がソ連時代の 1971年に既に理論として指摘しており,同氏にも同賞が授与されるべきだとのロシアの学者の声を報道している.
     賞金は1000万クローナ(約1億3200万円)を3人が等分する.自然科学分野で女性2人が同時受賞するのは初めて.

  • 2009年ノーベル物理学賞は, 「光ファイバーとCCDセンサー」中1氏米2氏に
    • Charles K. Kao(チャールズ・カオ,元香港中文大学長,75歳,英・米国籍)
    • Willard S. Boyle(ウィラード・ボイル,元米ベル研究所研究員,85歳)
    • George E. Smith(ジョージ・スミス,元米ベル研究所研究員,79歳)
     授賞理由は,カオ氏が「光ファイバーを用いた光通信に対する画期的成果 (for groundbreaking achievements concerning the transmission of light in fibers for optical communication)」, ボイル氏・スミス氏が「CCD(電荷結合素子)センサーの発明 (for the invention of an imaging semiconductor circuit -- the CCD sensor)」

     カオ氏は1966年,それまで信号の到達距離が短かった光ファイバーに対し,素材に純度の高い石英ガラスを使えば,100キロ以上でも光信号を伝えられることを理論的に予測し,「光ファイバー通信の父」と呼ばれている.現在の高速通信の時代を築いたことになるが,光通信に関しては, 西澤潤一・元東北大学長(83)が光通信の3要素(半導体レーザー、光ファイバー、受光素子)を考案する 選考研究を行っていた.西澤氏は「光通信の父」と言われ,スウェーデン王立科学アカデミーも西澤氏の業績に言及した. 西沢氏は,1965年ごろ(光ファイバーの)屈折率を工夫すると光が遠方に伝わるというアイデアをカオ氏に伝えた,という.

     ボイル氏とスミス氏は1969年、CCD(Charge Coupled Device,電荷結合素子) を世界で初めて発明した. 光電効果を利用して,光の情報を電気信号に置き換える技術で,現在はデジタルカメラなどに広く使われている.
     賞金は1000万クローナ(約1億3200万円).カオ氏が半分,残りを2人が等分する.

  • 2009年ノーベル化学賞は, 「リボソームの解明」英米イスラエル3氏に
    • Venkatraman Ramakrishnan
      (ベンカトラマン・ラマクリシュナン,英MRC分子生物学研究所,57歳)
    • Thomas A. Steitz
      (トーマス・スタイツ,米エール大,69歳)
    • Ada E. Yonath
      (アダ・ヨナット,イスラエル・ワイツマン科学研究所,70歳)
     授賞理由は「リボソームの構造と機能の解明 (for studies of the structure and function of the ribosome)」.

     たんぱく質は生命活動に欠かせない物質で,アミノ酸という分子が数多く組み合わさってできている. DNAにある遺伝情報を「mRNA」と呼ばれる分子がコピーし,それを基にリボソームに伝える. リボソームは遺伝情報に従ってアミノ酸を並べ,たんぱく質を組み立てる小器官である. リボソームは大小二つの部品でできており,巨大で複雑な分子のため,結晶化するのは不可能と考えられていた.
     ヨナット氏は1980年にリボソームの結晶化に成功. スタイツ氏とラマクリシュナン氏がそれぞれ,結晶にX線を当てて結晶内部の原子配列を決める手法を駆使してリボソームの各部品の構造を明らかにした. また,細菌のリボソームに抗生物質が結合し,その働きを阻害する様子も解明した. 抗生物質は繰り返し使うと細菌が抵抗力を持ってしまう.この功績は新型の抗生物質をより簡単に設計することに貢献した.
     賞金は1000万クローナ(約1億3200万円).3等分する.

 
 授賞式はスウェーデンのストックホルムで12月10日に開かれる.

  • 物理学賞は,昨年と同じく,2つのトピックの強引な寄せ集め,の感じがする.
  • Thomson Reuter社の 受賞者予想では,生理学・医学の3人が大当たり.他は外れだった.
  • 今年は女性の受賞者が多い.生理学・医学賞で2人,化学賞で1人,文学賞の1人も女性である.