「ダヴィンチ・コード」でブレイクしたダン・ブラウンの小説「天使と悪魔」は今年映画化された.(残念ながら私はまだ映画を観ていないが,)この小説は,図像学者のラングドン教授が,スイスの素粒子加速器研究所CERNで発生した殺人事件を追いかけるというストーリー. 大量に生成された反物質が盗み出されて,バチカンに爆弾として仕掛けられる,という大胆な筋書きである. ネタバレを避けるためにこれ以上は書かないが,実際にCERNで反物質研究を進めている早野氏が この小説の科学性を真面目に論じている.
早野氏のウエブサイト 物理学者とともに読む「天使と悪魔」の虚と実 50のポイントにも書かれているように, 意図は,
エンターテイメントの科学性を論じるのは「やぼ」と承知していますが、原作冒頭から「事実」として反物質のことが記されており、一般の方々には、虚実の境目が見分けにくいと考え、天使と悪魔に登場する反物質の虚実皮膜を絵解きし、我々日本グループも深く関わっているこの研究の現状についてお伝えしたかったとのこと.実際に伝えたかった内容は,
- CERNで反物質を作る実験をしているのは事実.
- 原作のように1/4グラムもの反物質を作るのは不可能.
- 反物質を容器に入れて持ち運ぶことは不可能.
- 反物質を使って凶悪な兵器を造ることは不可能.
- 反物質研究は,CPT対称性の検証や陽子・電子質量比の決定に貢献する基礎研究であること.
CERNでは,1周 27 km の加速器LHCが,まもなく稼働する. (2008年9月に稼働を始めたが1ヶ月でヘリウム漏れ事故が発生して中断. 2009年11月中旬に運転再開の予定).素粒子標準理論の核となるHiggs粒子を見つけるのが 最大の目的だが,もし時空が4次元ではなく高次元だとするならば,小さなブラックホールが 生成されて蒸発する可能性が指摘されている.理論物理としてはとても面白いネタで盛り上がって いるのだが,世の中にはブラックホールという言葉に敏感に反応して「危険である」とか「タイムマシンができる」とかいう噂も広がった.これらに対して,LHCの研究者は昨年の6月に安全宣言を出している.詳しくは,
http://jp.arxiv.org/abs/0806.3414に書かれている.
Review of the Safety of LHC Collisions