実験は,スイスとイタリア間の730Kmの距離をニュートリノを飛ばして測定したもの. 専門家向けのプレプリント(論文原稿) arXiv: 1109.4897 (右側の PDF download で本文が手に入る)によれば, データは6シグマ のエラーバーで,(ミュー)ニュートリノ が光速を上回った値を
(60.7 ± 6.9 (統計誤差) ± 7.4 (系統誤差)) ナノ秒
あるいは光速に対して上回った割合を
(v-c)/c = (2.48 ± 0.28 (統計誤差) ± 0.30 (系統誤差)) ×10^{-5}
= 10 万分の2
と報告している.
6 シグマ の範囲から外れることは 10^{-9}=10億分の1 以下の確率で, 誤差いちばん大きく見積もっても光速より速い,という結果になっているようだ.
しかしこの結果は物理学者にとってはまだ懐疑的で,データ解析の途中で見落としている誤差があるのではないか,と 考えられており,他のグループによる再実験報告待ちの雰囲気である. しかしおそらく多くの物理屋は,「どこか測定したものにミスがあるか,データ処理の過程に 隠れた誤差があるにちがいない」と思っているはずだ.特殊相対性以降100年間に積み上げられてきた物理法則や実験結果は, すべて光速が上限である,ということに反しないもので,これがたった1つの実験結果でくつがえることはないと思われる.
上記の論文原稿の結びには,次のように書かれている.
Despite the large significance of the measurement reported here and the stability of the analysis, the potentially great impact of the result motivates the continuation of our studies in order to investigate possible still unknown systematic effects that could explain the observed anomaly. We deliberately do not attempt any theoretical or phenomenological interpretation of the results.
訳しにくい文だが,敢えて意訳すると,
本測定報告の重要性および分析の安定性を考えると,(光速を超える測定結果は)重大な インパクトを引き起こす結果であることは疑いなく,我々は引き続き,ここで観測された 異常(anomaly)な結果を説明するような未知の系統的誤差を調査する. 我々はこの結果に対して,敢えて理論的あるいは現象論的な解釈を論じない.
著者たちも,「大発見」を主張しているわけではない.
これからしばらくは,
- 光子が質量をわずかに持っていてニュートリノの方が軽かったのだ,とか
- ニュートリノはエネルギースケールによって性質を替えるのだ,とか
- アインシュタインは速度には上限があることを述べただけだ,とか
明らかなことは,この実験結果をもって,タイムマシンができることにはならないということだ.
Nature News Oct 05 (2011)
Faster-than-light neutrinos face time trial
Nature News Sep 27 (2011) Speedy neutrinos challenge physicists
Nature News Sep 22 (2011) Particles break light-speed limit
OPERA statement