Hisaaki SHINKAI Homepage

His Comments (Japanese version/2003)


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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- January 5, 2003

結局,貧乏暇なし

 一月の中旬にレクチャーを2つ引き受けてしまったので,なかなか 心が落ち着かない正月であった. 妻君は年賀状に大掃除に正月料理に初詣,と企画をきちんとこなしていたので, それなりに季節感はあったのだが, 近所のスーパーも二日から営業なので,生活感覚もなんとなく普段のまま. 三が日は,若干風邪気味の寝正月だったが,特にテレビをつけることもなく,読書と 書類に「追われる」日々だった. ときにはぼーっとするか,趣味に没頭するような時間が欲しいところだが, 心に余裕が持てないのが苦しいところ.今の職もあと一年だし,職探しも再び 深刻な問題になってきた.
 海外出張が頻繁に続いていたからかもしれないが, なんか最近,日常生活の進み方と,自分の時間感覚が遊離している気がして怖い. アメリカでは正月は特に休暇ではなく,三日には全員集合だった. そんな習慣がまだ抜けず,30日(月)に勝手に仕事納め,5日(日)に仕事始めで 活動しているが,誰もいない研究室は,コンピュータも止まっているので とても寒かった.結局は,「貧乏暇なし」の一言でまとめられるのかもしれない.

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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- February 9, 2003

女子大で授業

 先月,韓国で専門の授業をする機会があった.「アジア太平洋理論物理学 センター主催 相対論と宇宙論 冬の学校」の講師である.対象は大学院生, 割り当てられた時間は4時間で,タイトルは「数値相対論入門」.私は一応, この分野で仕事をしているが,映画になるような数値計算結果を持っている わけではない.一度は断ったのだが,先方の韓国人の先生は,2年前に国際 会議で会って以来,時々世話になっている人で,「実は1月中に使わなければ ならない予算があるから」と聞いて承諾したのだった.依頼されたのは11月末で, 授業の準備を始めたのが年末.直前の2週間は,他に何も手に付かない忙しさだった.
 場所はソウルの梨花女子大学.一昨年に滞在したことがある場所で,土地勘 もあり,行く前から安心.現地に到着すると,学生は男女半数ずつの30人で, 講師は全部で4人.韓国人の二人の講師は韓国語で,私と大阪大学のS教授は英語で授業をした.
 学生はまじめで,式ばかり続く午後の授業も,寝込む者無く,おとなしく 聞いていた.英語通じているのかな,と不安になって,冗談を交えると笑って くれるので,通じているらしい.授業後の質問は,講師仲間でかなり専門的に なった.私が解説したからといって,翌日からすぐ学生の役に立つものでは ないが,何年か後に芽が出てくるかも知れないな,と考えて一人悦に入ること こそ,教師の楽しみなのかもしれない.
 私にとっては初めての,往復旅費も滞在費も支給される海外出張で,しかも ほとんど毎晩,飲み放題食べ放題だった.支給されたウォンは,きちん と韓国社会に還元したし,電子化された100枚以上のスライドと40ページの 英語講義ノートは,今後も再利用可能なので,またいつか呼んでもらいたいものである.

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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- February 24, 2003

宇宙が解明されるとき

 今月はじめ,MAP衛星によって,宇宙背景輻射の詳細が観測・解明された,と 発表された.宇宙背景輻射とは,宇宙が誕生して10万年後,はじめて光が熱に捕らえられずに放射を始めたときの名残りであり,我々が電磁波で観測できる最遠の現象である.宇宙がかつて高温の火の玉であったことの確実な証拠であり,ビッグバン宇宙論と現代物理学を支持する揺るぎない証拠でもある.10年ほど前,COBE衛星によって発表された宇宙背景輻射のプランク分布曲線の美しさは,研究者全員をうならせた.Einsteinの一般相対性理論を基礎にしたビッグバン宇宙論が正しいことを確実に示したからだ.COBEはさらに輻射のゆらぎが有意に存在することも示し,この事実はその後の銀河の形成論に重要な役割を果たしてきた.
 今回のMAP衛星は,COBE衛星の観測データをより詳細に調べたものだ.今回のデータにより,ビッグバン宇宙論の基礎方程式にあるパラメータまでもが決定された.ハッブルパラメータは71(これにより宇宙の年齢は137億年),宇宙全体の曲率はゼロであり(収縮することはなく),存在する物質は普通の物質4パーセント,暗黒物質(いわゆるダークマター)23パーセント,宇宙定数(あるいはダークエネルギー)が73パーセント.10年前では,宇宙は120億年とも150億年とも言われていたし,宇宙定数の存在自体が疑問視されていたので,大きな進展である.これまでの研究が大きく外れることがなく,正しい方向へ絞り込まれたということも,成果に違いない.
 しかし,一抹の寂しさも感じるのは何故だろう.研究者から見ると,解明されて「しまった」ことは喜ばしい反面,一つの課題の終焉も意味する.宇宙全体というこの上なく大きなテーマは,未知なる故に魅力的だった.自分の考えたモデルが事実として通用するかもしれないという研究の楽しさがあった.奇想天外な議論を展開できる余地が多分にあった.COBE/MAPのデータは,研究者からこれらの楽しさを相当奪う.「そもそも球状星団の年齢が宇宙の年齢より長く見積もられているのは何故か」というエキサイティングな問題はもう存在しない.「ハッブル定数が50だと思う人と100だと思う人の多数決」はもうあり得ない.今後は観測データをきちんと説明するような,詳細を含めた議論の展開が主流になる.これは,サイエンスの定めかもしれないが,研究に対する「わくわくした感情」からは相当冷めることになる.
 せめてもの救いは,宇宙の構成要素の96パーセントは,正体不明のダークなんとかであることだ.

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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- August 5, 2003

オーストラリアでブーメランを飛ばす

 1週間,応用数学国際会議のため,シドニーに滞在した.7月のシドニーは冬であるが,快適である. シドニーの国際会議場は,ダーリンハーバーに面していて,一つの観光スポットになっており,水族 館や海洋博物館,ショッピングモールが徒歩圏にあり,会議の息抜きの誘惑が整っている.中華街が 隣にあり,観光客で溢れているが,町は安全で,自分の財布を狙っているものがいない,という安心 感は日本を歩いているときと同じである.土産物屋は地方から来た人が多いらしく,訛ったイギリス 英語を聞くことが多い.初日に「Have a good die」と言われたときは,面食らった.応用数学分野 の会議は初めてだったため,知り合いもなく始めは寂しかったが,1週間もすると,だんだんと人の 輪も広がった.

 さて,オーストラリアで実際にしてみたいことにブーメランがあった.シドニーからバスで2時間く らいの所にあるブルーマウンテンという景勝地とブーメランの体験ツアーを組み合わせたものを見つ け,早速申し込む.普通の人はブルーマウンテンとコアラ抱きかかえツアーに参加するらしく,同日 の同じツアー会社でも私のバスは10人乗りのマイクロバス,コアラ付きは50人乗りの大型バスだっ た.南アフリカでもそうだったが,10人くらいの人数だと夕方には皆握手して別れるほどの間柄になる.
 ブーメランはシドニーの土産物店で多く並んでいる.ほとんどはアボリジニーの彩色が施された観賞 用で,飛ばしてももどらないそうだ.僕は「returnable」と書かれたものを購入しツアーに持参し た.「ブーメランを飛ばしてみたい人がいるならこの広場で停車するけど」とガイドのジョンが言っ たのは,ツアーの一番最後だった.絶景が続くブルーマウンテンで十分もとはとれたツアーであった が,真っ先に「止めてくれ,やってみたい」と叫んだのは僕だった.
 ブーメランには右利き用と左利き用と2種類あるそうだ.飛行機の羽のように両翼が流線型になって いる軽いものが良いブーメランで,当然装飾は飛行に無関係.無風の状態がいいが,風が吹いている ときは風に向かって2時の方向に飛ばす.持ち方は外側に平らな面があれば,結構どうでもいいらし い.そして垂直に1時の方向に傾けて水平に投げ飛ばす ....マイブーメランは,しかし戻ってこなかった.「Money Back!」と横で見ている他のツアー客がジョークを飛ばす.ジョンが投げても戻ってこない.「これ では(鳥を狙い撃ちするための)キラーブーメランだね」とジョンが言う.ジョンのブーメランは 十数メートル先で突然方向を2回変え,三角形を描いて手元に戻る.僕がそれを試しても自分で取ると ころまでは無理だが,確かに方向転換は実現した.ジョンのブーメランを一つ売ってもらったのは言 うまでもない.
 初め傍観するだけだった他のツアー客も数人が参加し,なかなか楽しんだ一時だった.バスに戻る と,誰かが「おまえのブーメランはreturnableって書いてあったんだろ.店に返して返金してもらっ たらどうだい.」とありがたい忠告をしてくれた.

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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- August 24, 2003

南半球の星座盤

天文学会誌に載っていた広告に, 「全世界対応星座早見盤」新発売 (三省堂)というのがあった. ちょうどオーストラリアの土産に,南半球で使える星座盤を買ってきたばかりだったので, こいつはやられた,といった感じだ.
ビールを飲んで,シドニーの町を日本人3人で歩いていた時,街の明かりにも負けずに輝いて いる星を見て,それが南十字星かどうかで議論になった.確かめるため,通りがかった初老の 人に「どれが南十字星でしょうか」と聞いた.驚いたことに彼はその質問に答えてくれただけ ではなく,聞いてもいない「南十字星からどうやって方角を知り得るのか」を数分間延々と レクチャーしてくれたのだ.オーストラリアの人は,誰しもこんなに星に詳しいのだろうか. 今度はその点で議論になった.そこで,もう一度通りがかりの人に「どれが南十字星でしょうか」 と聞いた.小さい子供連れのパパとママはしかし申し訳なさそうに「これから天文台の望遠鏡を 見学に行く所ですが,わかりません」.地図を見ると,近くには国立天文台がある. ひょっとすると先の初老の人はプロだったのかもしれない....
帰国して,研究室の同僚に星座盤を見せびらかしたら,即座に一人が,「赤道上ではどういう 星座盤になるのかな」と言い出した.トイレットペーパーの芯みたいになると思うんだけど, 本物はどうなのだろうか??

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(f^^) His Comments (@_@) ---------------- October 8, 2003

研究に未練があるか,研究者に未練があるか

今回は長いので,別ページへ.

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Last Updated: 2003/10/8
by Hisaaki Shinkai