【科学政策】取り残された数学研究

「忘れられた科学-数学 主要国の数学研究を取り巻く状況及び我が国の科学における数学の必要性」と題した レポートが,2006年5月,文部科学省 科学技術政策研究所から報告された. (レポートの全文はここ
 内容は,ざっと次のようである.
  • 世界の数学論文の出版状況を比較.分野は数理科学(純粋数学,応用数学,統計学など)で,論文数を比べると, 日本は6位である.(1位から順に,アメリカ,フランス,ドイツ,中国,イギリス).一方で,全分野の論文数では日本は アメリカに次いで2位である.だから,数学研究は他の分野に比べて活発ではない.
  • 数学研究に関する各国の研究費配分を比較.科研費補助金における数学研究費の割合は1.9%の数十億円(10年前は2.6%),日本の数学研究所は8カ所, 数学の学位取得者は全体の1.2%で就職率は45%.米国では研究費の0.5%の440億円(10年前は0.4%)が数学研究費であり, 学位取得者は全体の2.2%で就職率は56%.フランスでは研究費の割合1.6%で190億円,研究機関は31,数学の学位取得者は3.3%で就職率は60%. ドイツでは,研究費の割合2.6%で36億円,他に数学研究に関する国家プログラムがある.
  • 日本の数学研究に関するアンケート結果.科学技術政策研究所への意見聴取を行う専門調査員2017名のうち,402名から回答を得た結果, 回答者の77%の研究内容が数学と(非常に〜やや)関係があるが,研究チームに数学の専門家がいない割合が74%.回答者の63%が現在, 数学者を必要としており,将来的には86%が数学者を必要としている.
  • 結論.日本の数学研究は,他国に比べて厳しい状況にあり,研究者からは国策に対し熱い期待が寄せられている. 他国の政策にタダ乗りすることなく,研究資金や研究振興を拡充することが必要である.

 前半の各国の比較は「はじめから結論ありき」といった印象.後半のアンケートはちょっと視点が曖昧ではある.なぜ「数学」に限った調査なのか, という疑問も抱くが,結論は予想通り.そもそも「数学」は,純粋数学から応用数学まで幅広く,研究スタイルも様々である.結論づけるとなれば, 抽象的な言葉で終わってしまうだろう.
 このレポートの目的は,数学研究の振興にあるようだが,もっと調査対象を広げれば, 「数学研究全体の向上」だけではなく, 「純粋科学の研究にテコ入れが必要」とか「理系離れ対策のための教育改革」といった結論を導くこともできたのではないか.
 この種のレポートが,官製で報告されたからには何か政策を期待してしまうのだが...(例えば,科研費が採用されるとか.)どうだろうか.