【重力物理】GravLens Issue 7

重力物理関係のプレプリントからいくつかの論文を紹介するGravitational Lens (PennState) の Issue 7 が掲載された.今回は次の3つ.抄訳+原論文のabstract抄訳+まとめ.

  • WMAPによる宇宙パラメータの決定 [Mapping the Universe We Live In]
    2001年より観測を開始しているWMAP衛星(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)による宇宙背景輻射の 3年目のデータが公開された.Spergelらは,これまでに得られている他の観測データも含め,単純な6つの パラメータに基づく宇宙モデルが最も整合的であるという.すなわち,一様・等方・巨視的に曲率ゼロの時空で 宇宙項が存在し,通常の物質・輻射・ダークマターの3種類の物質から構成される.初期宇宙ゆらぎは断熱的であり, スケールに依存しないランダムなゆらぎであると考えられる.現在の宇宙論の問題は,ダークマター・ダークエネルギー・初期ゆらぎ生成のメカニズムの3つになった.WMAPのデータはこの3つに対し,ダークマターがバリオンではないこと,ダークエネルギーの従う状態方程式が宇宙項に非常に近いこと,構造形成モデルはテンソルモードを持つかスペクトルインデックスが1以下であること,を示唆している.

    Spergel et al., Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Three Year Results: Implications for Cosmology - astro-ph 0603449

    以下は,データの補足.

    • 6つのパラメータとは,(matter density, Omega_m h^2, baryon density, Omega_b h^2, Hubble Constant, H_0, amplitude of fluctuations, sigma_8, optical depth, tau, and a slope for the scalar perturbation spectrum, n_s) のこと.
    • 他の観測とは,small scale CMB data, light element abundances, large-scale structure observations, and the supernova luminosity/distance relationship
    • WMAPデータだけであれば,best fitとなるモデルは,power-law flat LCDMモデルで,各パラメータは, (Omega_m h^2, Omega_b h^2, h, n_s, tau, sigma_8) = (0.127+0.007-0.013, 0.0223+0.0007-0.0009, 0.73 +- 0.03, 0.951+0.015-0.019, 0.09 +- 0.03, 0.74+0.05-0.06).
    • 単純なインフレーションモデルの予言とconsistentであり,CMPゆらぎはGaussianからのズレはない.

  • 超新星爆発による重力波放射モデル [Peering into Core-Collapse Supernovae]
    Ottらは,コア崩壊型の超新星爆発で,重力波放出が支配的になると,中性子星コアの振動を引き起こすだろう,という新しい予想を提案した.Newton重力・軸対称時空での輻射流体シミュレーション結果に基づくもので,重力波の振動は,流体のコアでのバウンス後,数100ミリ秒でg-modeで支配され,さらに数100ミリ秒持続する.この結果によれば,回転のないコア崩壊型の超新星爆発でも我が銀河内であれば,LIGOクラスの重力波干渉計で観測できるほどの重力波を放出する可能性が出てくるという.鉄のコアが大きいほど重力波が強くなり,Mpcの距離でも観測できる可能性があるという.

    Ott, Burrows, Dessart and Livne, A New Mechanism for Gravitational Wave Emission in Core-Collapse Supernovae, - astro-ph 0605493.

  • 中間質量ブラックホールからの重力波 [Hunting Black Hole Middle-weights]
    太陽質量の100倍から10^5倍程度のブラックホールを,中間質量ブラックホール (IMBH, intermediate mass black hole)と呼ぶ.Rasioらは,IMBH-IMBHの合体の最終段階での 重力波放出とLIGO干渉計/LISA衛星での観測可能性を検討し, (advanced) LIGOでは年に10回のIMBH-IMBH合体の合体時と減衰が観測され, LISAでは年に数10の合体直前(inspiral)の重力波が観測されるであろうと報告した.ただし,イベント数は 銀河クラスター質量と密度の分布によって大きく異なってくる.

    Fregeau, Larson, Miller, O'Shaughnessy and Rasio, Observing IMBH-IMBH Binary Coalescences via Gravitational Radiation - astro-ph 0605732.