【大学教育】物理と天文の教材交換サイトcomPADRE

アメリカ物理学会(APS, American Physical Society) の 重力物理グループ(Topical Group on Gravitation) が半年に一回発行しているMatters of Gravityの2006年秋号がプレプリントサーバgr-qc/0609045 に掲載された.一般相対性理論の研究会レポートを中心として,これまで14年間Pullin氏が編集役としてスタイルを築いてきたが,今回からGarfinkle氏とComer氏にバトンタッチしたようである.(年齢的には3者とも同世代だが).

さて,今号では,一般の人にも面白いネタとして, 「Teaching General Relativity to Undergrads(一般相対性理論を学部学生に教える)」というComer氏による研究会レポートがあった.量子力学は,理学・工学の分野で広く教えられているのに対し,一般相対性理論はそのマイナーさ故に物理学科の学生のみに特権的に教えられてきたのは,どの国でも共通の事情である.ところが,最近アメリカでは,科学に興味を持たせる意味で,E=mc^2 という超有名な公式を含め,物理を専門としない学生や高校生に対しても相対性理論を教えよう,という動きが出てきているらしい.(もっとも,カーナビに実装されているGPSのソフトウェアには,一般相対性理論の式を使った補正が必要なので,一般相対性理論は既に日常生活に欠かせないものとなってはいるのだが).

研究会自体は,7月20日-21日にSyracuse大学で開かれた.研究者と共に高校の先生も参加する形で,「重力波とLIGO干渉計」「Newton物理との違い」「GPS」「ブラックホール」などとテーマを絞ってレクチャーが行われ,教科書のスタイルも「物理が先で数学が後」型と「数学が先で物理が後」型に分けて議論が進められたらしい.

今回の討論を元にして,一般相対性理論の教材をネット上にまとめて掲載する予定だそうで,ニュース記事では教材を募集している.相対性理論だけではなく,すでに物理・宇宙分野では,教材のサンプルをボランティアで(もちろん匿名ではないが)共有できるサイト comPADREがあり,そこに分野を加えるそうだ.

comPADREは,Communities of Physics and Astronomy Digital Resources for Education (物理と天文教育のためのデジタル教材コミュニティ) の略らしいが,頑張って,compadre(親友)にこじつけた跡がアリアリ. 相対性理論以外の分野では,すでにいろいろ教材が置かれていて,レベルも目的もさまざまだが,クイズ形式で自動採点JavaScript付きウェブページなど,日本語に訳しただけで使えそうなものも結構ある.私も,物理専門ではない学生に,相対性理論を教える立場になったが,いつかはノウハウを蓄積して,ここに貢献してみたい.日本でもこのような教材交換サイトを推進しても面白いかもしれない.早速,天文教育普及研究会を見つけ,入会してしまった.