【宇宙物理】星間ガスの重水素D存在比

標準ビッグバン宇宙モデルの決定的な証拠の1つとしてヘリウムや重水素(Deuterium)などの軽元素存在比が理論値と整合する事実がある.重水素は宇宙初期で作られ,その後,恒星内の核融合反応で消費されてゆく運命にある. ビッグバン直後に作られた重水素の割合は、水素原子100万個あたり27個程度(27ppm)であり,我が銀河では現在までにその30%以上が失われている計算になる.

ところが,我が銀河系内では重水素量が 5-22 ppmであることが知られており,理論値よりも低すぎた.そこで,重水素は水素に比べて,星間物質に含まれるちりの粒と結びつきやすいのではないか,と理論的に予想されていた.

重水素は遠紫外線領域の電磁波を放射することから,1970年代のコペルニクス衛星に続き,最近のFUSE (Far Ultraviolet Spectroscopic Explorer)衛星を用いて詳細な観測が行われた結果,この予想通り,星間物質のちりの多いところでは重水素の量が低いことが確かめられた.しかし同時に,重水素の量そのものが,宇宙初期の量に比べて現在までに15%以下しか減少していないことも報告された.

可能性は2つ考えられている.恒星に取り込まれてしまう重水素の量が従来の予想を下回っていたか,銀河の歴史を通じて外部から「新鮮な」ガスが予想以上に供給されたか.どちらにしても,しばらく銀河の化学進化研究は面白そうである.

NASA FUSE Satellite Solves the Case of the Missing Deuterium 8/14 NASA
Hidden hydrogen could force galaxy rethink 8/30 Physics Web
137億年を生き延びた原子が、天の川銀河の歴史を語る 8/22 AstroArts
J.L. Linsky et al, Astrophys. J., 647 (2006 August 20) 1106