【宇宙物理】X線フラッシュと中性子星形成

「ガンマ線バースト(GRB, Gamma-Ray burst)」とは,天球の一点が突然ガンマ線波長で明るく輝いて見える天体現象である.ガンマ線バーストは,宇宙の中で最もエネルギーの大きな爆発現象ともいわれ,その起源を超新星爆発(SN, Supernova)と関連づける観測データが,この数年蓄積されてきた.2003年には,GRB 030329と極超新星SN 2003dhとのスペクトルが一致し,また,SN 2002ap の観測から高速ジェットの証拠を示唆する偏光成分が発見され,高速ジェットを伴う重力崩壊型超新星モデルが提案されてきた.そして,超新星 SN 2003jd の観測で,これが高速ジェットを激しく噴出している爆発を横からみた姿である証拠を初めて発見し,極超新星の大部分は高速ジェットを伴うガンマ線バースト母天体であり,ジェットが我々に向いている場合にのみガンマ線バーストとして観測されるという予想を裏付けた(国立天文台プレスリリース 2003/06, 2005/05).質量が太陽の40倍以上の星が寿命を迎えて超新星爆発を起こした際に,ブラックホール形成と共に継続時間の長いGRBが発生することがモデルとして確立してきた.

GRBに類似しているが,より低い光度でわずかなガンマ線しか放射しない現象である「X線フラッシュ(XRF, X-ray flash)」現象も知られている.XRFもSNと関係しているのか,またそれらが本当に「弱い」現象であるのか,あるいは典型的な GRBをバーストの軸方向から外れた方向から観測した現象であるのかどうかは,明らかではなかった.今週,Natureに掲載された4本の論文は,今年2月に観測された GRB 060218 の観測結果と,その超新星(Ic型) SN 2006aj との関連について報告である(8/31 時事通信).以下,Natureの日本語概要を抜粋.

  • [1] S. Campana et al, Nature 442, 1008-1010 (31 August 2006)
    GRB 060218は,古典的な非熱的放射に加えて,X線スペクトルには熱的成分がみられる.この成分は時間とともに冷却され,可視光/紫外線帯へとシフトする.これらの特徴は,突発的に発生した衝撃波が,中程度に相対論的なシェルによって,母天体を取り巻く高密度なウィンド中へ押しやられることで生じると考えられる.我々は,まさに爆発する瞬間の超新星をとらえ,衝撃波の突発的発生を直接的に観測した.この結果は,GRBの母天体がウォルフ・ライエ星であったことを示している.
  • [2] E. Pian at al, Nature 442, 1011-1013 (31 August 2006)
    超新星2006ajは,GRBに付随した従来の超新星よりも低い光度をもつが,GRBを伴わない多くの超新星よりは明るい.電波とX線での観測結果を組み合わせると,我々のデータは,XRF 060218が本当に弱く低エネルギーの現象であって,古典的なGRBをバーストの軸方向から外れた方向から観測したものではないことを示唆している.これは,GRBと超新星の結びつきが,X線フラッシュとさらに暗い超新星との結びつきにまで拡張され,どちらも超新星が起源であることを意味している. XRF 060218のような現象は,通常のGRBよりもおそらく非常に多く存在するだろう.
  • [3] A. M. Soderberg et al, Nature 442, 1014-1017 (31 August 2006)
    GRBやXRFの電磁気的な光度は,通常のIbc型超新星のものより何桁も大きいが,これらの発生メカニズムは明らかではない.XRF 060218 を電波およびX線で観測した結果,この現象が宇宙論的なGRBの100分の1のエネルギーしかもたないが,10倍の頻度で発生することが示された.さらにXRF 060218は,中程度に相対論的な放出物の運ぶ10^{48} ergのエネルギーと,爆発後数週間にわたってX線を生成する中心動力源(降着を受けて高速で自転するコンパクトX線源)の存在によって,通常のIbc型超新星と区別される.これは,相対論的な放出物の生成が,GRBあるいはXRFと通常の超新星との重要な物理学的相異であることを示唆する.また,非対称なGRBと球対称なXRFとは中心部の動力源(ブラックホールまたはマグネター)の性質によって区別される可能性を示唆する.
  • [4] P.A. Mazzali et al, Nature 442, 1018-1020 (31 August 2006)
    SN 2006ajのスペクトルと光度曲線のモデルを構築した結果,SN 2006ajがほかのGRBに付随した従来の超新星より非常に小さい爆発エネルギーしかもたず,放出物質の質量もずっと小さかったことを示された.初期質量は太陽質量の約20倍の星であると考えられるので,ブラックホールではなく中性子星が形成されると考えられる.この結果は,超新星とGRBの結びつきがこれまで考えられていたよりもはるかに広い質量範囲の星にわたっていることを示しており,おそらく異なる物理メカニズム,すなわちブラックホールになる大質量星については「コラプサー」,また小質量星については,誕生したばかりの中性子星の磁気活動がかかわっていると考えられる.
超新星爆発により,ブラックホールになるほど大きなものはGRBを発生させ,中性子星になるものでもXRFを発生させる,と覚えておこう.自分でも知らない分野だったので,記事が長くなってしまった.