上記の会議の,Cokelaerのスライドに説明の跡がある.LIGOの S3 science run (2003/10/31-2004/1/9),S4 science run (2005/2/22-2005/3/24) のデータから,原始ブラックホール連星(PBH),連星中性子星(BNS),連星ブラックホール(BBH)の 3つのタイプの重力波を探索する,という話である. 重力波干渉計は, ワシントン州Hanfordにある2つ(干渉計の1辺が4Kmの H1 と2Kmの H2)と ルイジアナ州Livingstonにある4KmのL1 の3つが稼働していた. 重力波はとても弱いので,ノイズに埋もれたデータから,あらかじめ予想される重力波波形と マッチするかどうかを照合し,それらしき候補を拾い出す, という手順で行われる.そんな中でシグナルノイズ比が突出した候補が1つ, S3のデータに登場したという.
候補データは,H1とH2にのみ存在し,BBHと考えられた.しかし,さらなる再検討の結果, 棄却されたという.棄却の根拠は,L1で観測されず,同じHanfordにある干渉計のデータだけではノイズが 低く評価されてしまうこと,物理的な波形モデルで照合するとH1とH2のデータに時間差が 38msもあること,Null-streamテストでは完全に否定されてしまうことなどである.
結局のところ,干渉計が稼働をはじめて5年になるが(稼働当初は感度が低かったが), 未だ確実な重力波の発見の報はない.発見できないことから,候補天体存在の上限値を 議論する論文しか発表されていない.しかし,発見を確実なものとするために, いくつもの(チェックリストは200以上あるそうだ)テストを進め,誰もが納得する 結論を出そうとする体制が確立していることは確かなようだ.