【科学普及】天文台・科学館・プラネタリウムは,博物館か

文部科学省・これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議のページから, 120ページの 「新しい時代の博物館制度の在り方について」最終報告(pdf)が公開された.

昭和26年に制定された博物館法を,形態やニーズが多様化した現状に合わせて改正することを目的に,「そもそも博物館とは何か」を公式にまとめたものである.

報告書の要旨は,次のようである.

  • 第1章 博物館をめぐる昨今の動向
    現状の問題点として,『博物館法上位置づけられる博物館は,博物館全体の中では少数」「学芸員の資格取得は,同類の資格と比較して容易』. 博物館を取り巻く状況は,『公立博物館には予算減,指定管理者制度や市場化テストなど,私立博物館には公益法人改革等,大きな変化の中にある.』そして,生涯学習社会への対応も必要.
  • 第2章 博物館とは
    求められる役割は『「集めて,伝える」博物館の基本的な活動に加えて,市民とともに「資料を探求」 し,知の楽しみを「分かちあう」博物館文化の創造へ』
    博物館の基本的定義は『「資料の収集保管,展示による教育,調査研究」を一体として行っていること.』
  • 第3章 博物館登録制度の在り方について
    現行博物館登録基準は,実物資料を重視するなど外形的観点を中心としている点が問題.
    新しい登録制度として,博物館にふさわしい活動の内容面を重視する 観点を持ち,博物館相当施設の指定制度を博物館登録制度に一本化する. 『審査基準の柱は,経営(マネージメント),資料(コレクション),交流(コミュニケーション)』
    登録審査機関を設け,一定期間毎に登録博物館としての水準が維持されている か確認することが望ましい.
  • 第4章 学芸員制度の在り方について
    現職学芸員の資質向上のための方策が課題.コミュニケーション能力の一層の向上や大学の養成課程の見直しが必要.
    大学と博物館が協働して学芸員を養成する体制づくりとして, 大学における「博物館に関する科目」は,経営・教育・コミュニケーション 能力の育成を重視して見直し,科目を修得した者は「学芸員基礎資格(仮称)」 を付与.博物館での一定期間の実務経験を学芸員資格の要件に.
  • 第5章 博物館運営に関する諸問題について
    指定管理者制度の下では,博物館活動が適切に行われているかについて審査 する登録制度の役割が一層重要.また,登録博物館の低廉な入館料(公立博物館の原則無料)の設定を推進.
  • 第6章 博物館に関する総合的な専門機関の必要性
    博物館に関する第三者専門機関を設立することで,博物館登録制度をはじめとする博 物館諸制度が一層有益な制度として活用されることを期待.

小泉内閣発足後「公営組織の法人化・民営化」の一環として進められている「指定管理者制度」は,公の施設の管理を,入札などを通じて民間法人にもさせることができるという制度で,経費削減の旗の下,実行に移されている.文化関連では,博物館・美術館・図書館などの施設もこの制度に取り入れられることになる.

地方自治体やプラネタリウム・科学館などでは,この制度が施行されることに強い危惧観を抱いている. 天文教育施設に対する指定管理者制度導入に関する声明(天文教育普及研究会)では, 『教育普及・文化振興の役割を果たすためには,施設職員及び事業内容には高度な専門性が不可欠であり,(中略)短期的な収益性・効率性のみで管理運営形態が判断されるとすれば,教育施設としての根幹が揺らぎ,天文教育の質の低下を招くものと憂慮』している.

今回の報告書では,博物館学芸員の負担がこれまで以上に増えることになりそうだが,提言されている 博物館法改正が,指定管理者制度の見識なき運用に歯止めをかけることになり得るのかどうか,今後も議論の動向に注目したい.