【科学政策】NASAの予算はダークエネルギー探査へ

先日報告した【会議報告】第18回一般相対性理論と重力国際会議(Sydney)記事で,「LISA計画(人工衛星3機による重力波観測レーザー干渉計)のNASAによる予算配分決定は,今年の9月に通知されるとのこと.」と記載した.その結果が米国アカデミー(National Academy)によって発表された.第1位として推薦されたのは,ダークエネルギー探査計画だった.

NASAは,2009年以降の次世代の科学に対して,"Beyond Einstein(アインシュタインを超えて)" と名付けた5つのミッションを提案しており,その中から最初に予算をつけるべきものは何か,という提言が発表された形である.

Beyond Einsteinの主となる問題提起は,

  1. What powered the Big Bang?
    標準ビッグバン宇宙の起源の解明.
  2. What happens to space, time, and matter at the edge of a black hole?
    ブラックホールの周辺での空間・時間・物質運動はどのようになっているのか.
  3. What is the mysterious "dark" energy pulling the Universe apart?
    宇宙を加速膨張させているダークエネルギーの解明.
の3つである.提案されている 5つのミッションとは,2つの天文観測プロジェクト
  • Constellation-X (Con-X) X線天文衛星
    1つの衛星に口径1.3mの4つの望遠鏡を備えて従来の100倍の解像度でX線を観測する.得られる科学的成果は,(1)ブラックホールを用いた一般相対性理論のテスト,ブラックホールの回転速度の測定,(2) ダークエネルギーのパラメータの精度向上,(3) 現在直接観測されていないバリオン量を Warm-Hot Intergalactic Medium (WHIM)と仮定して探索,(4) 中性子星の質量・半径測定による状態方程式の特定
  • Laser Interferometer Space Antenna (LISA) 重力波観測衛星
    3つの衛星で一辺500万kmのレーザー干渉計を構成し,重力波を観測する.得られる科学的成果は, 巨大ブラックホール連星の合体や白色矮星の振動によって発生する重力波の直接観測.
及びThe Einstein Probesと名付けられた3つの探査計画
  • Joint Dark Energy Mission (JDEM)  ダークエネルギー共同探査
    NASAと米国エネルギー省(U.S. Department of Energy)による共同提案で,Ia型超新星の系統的な探査を利用したダークエネルギー量の詳細な特定.現時点で, Advanced Dark Energy Physics Telescope (ADEPT), the SuperNova/Acceleration Probe-Lensing (SNAP-L), and the Dark Energy Space Telescope (Destiny)の3つのプロジェクトが提案されている.
  • Inflation Probe (IP) インフレーション宇宙探査 
  • Black Hole Finder probe (BHFP) ブラックホール探査
であった.

これらのうち,第1位として推薦されたのは,Joint Dark Energy Mission (JDEM)であった. JDEMは提案されたミッションの中で,現在の技術で十分可能であり,Beyond Einsteinの目的に最も適う,と評された. Laser Interferometer Space Antenna (LISA)は,第2位として特記された. 一部の技術がまだテスト中であることがコメントされている.

LISAは,European Space Agency (ESA)が2009年にLISA Pathfinderという試験衛星を打ち上げて必要となる技術テストを行うことになっている.LISA Pathfinderが成功した暁には,NASAは予算を本格的に付けることになると思われる.報告書では,他の4つすべての提案に対しても重要性を認め,今後も継続的に調査予算的サポートを続けるようにも提言している.

2007/9/5 The National Academy News 
NASA's Beyond Einstein Program: An Architecture for Implementation