【宇宙物理】直径10億光年の巨大ボイド

宇宙空間に,これまでにない大きさのボイド(空洞,void)が発見された.WMAP衛星(Wilkinson Microwave Anisotopy Probe)による宇宙背景放射観測で,エリダヌス座(Eridanus)付近の目立って温度が低い領域「コールドスポット(冷たい場所,WMAP Cold Spot)」を電波観測で詳しく測定した結果,地球から60〜100億光年の距離に,直径10億光年弱の巨大ボイドが存在することが分かった.

宇宙空間には,膜のように分布する銀河団とともに、ほとんど物質が存在しないボイドが存在し,泡が積み重なったかのような「大規模構造」をなしている.典型的なボイドのサイズは,1億光年程度である.

今回の発見により,コールドスポットが,宇宙背景放射のゆらぎに起因するものではなく,通過する過程に起因することが明らかになった.背景放射の温度が低い理由としては,ボイド内にはその領域内を加速膨張させる「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が存在しないことが考えられる * .

現在,プレスリリースとしては,米国国立電波天文台(NRAO,National Radio Astronomy Observatory)の超大型電波干渉計(VLA,Very Large Array)によるものだけで,論文・プレプリントはまだ入手できない.

2007/08/23 米国国立電波天文台(NRAO)プレスリリース
2007/09/04 AstroArts


(2008/2/8追記)上記の * の部分に関して,近畿大の井上氏より,次のような指摘をいただいた.

「背景放射の温度が低い理由としては,ボイド内にはその領域内を加速膨張さ せる「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が存在しないことが考えられる.」
の部分は
「ボイド内には「ダークマター」がほとんど存在せず、加速膨張期に重力ポテン シャルの大きさが段々と小さくなることが理由として考えられる。」
の方が正しいと思います。ISW効果はボイド内部の成分を問わず、 ポテンシャル崩壊によって引き起こされるため、上記の場合も あり得るかもしれませんが、通常は宇宙定数を考えています。 (因みに質量優勢期も(二次の効果ですが)同様に温度が低くなります。)

ご指摘をありがたく受け止め,ここに転載させていただきました.