【宇宙物理】超高エネルギー宇宙線の由来,解明か

ここ数年,宇宙線物理学の分野で大問題になっていた,到来エネルギーが 10^{20} 電子ボルト以上の 超高エネルギー宇宙線 (UHECR; ultra-high-energy cosmic ray)の起源が,75 Mpc(2.3億光年)以内の活動銀河中心核(AGN, active galactic nuclei)である,とする解析結果が,アルゼンチンにあるPierre Auger Observatoryのグループによって,Science誌で報告された.2004年に検出器が稼働して以来,過去4年間に観測された 5.7 x 10^{19} 電子ボルト以上の27例について,到来方向を解析したもので,6 x 10^{19} 電子ボルト以上の15例のうち12例については,既知の 75 Mpc 以内のAGNから3.1度以内の方向であると特定でき,残りの12例もほとんどが同様にAGN由来のものと特定されるという.前者のものが,本来ランダムであるのにこのようなAGNとの方向一致が見られる確率は,99%の信頼度で棄却されるという.

このような高エネルギーにまで粒子を加速するメカニズムはまだ合意のある解明まで至っていない. 陽子,中性子や,他の原子核による宇宙線は,はじめに光速に近い速度であっても,伝播の途中で 宇宙背景放射マイクロ波との相互作用によって速度が落ち, 4 10^{19} 電子ボルト程度にまで エネルギーが減少すると考えられている(グレーセン・ジョセピン・クズミン限界(GZK cut-off; Greisen-Zatsepin-Kuz'min cut off)).そのため,そもそも数年前には,GZK cut-off を超えるような宇宙線の観測は何らかの測定ミスではないかとさえ言われていた. 日本では,山梨県明野市にAGASA(Akeno Giant Air Shower Array:明野広域空気シャワー観測装置)がある.

観測データが蓄積するにつれ,UHECRの起源として,強い磁場をもつ活動銀河核(その中心はブラックホール) 電波銀河かクェーサーであるとする期待の他,特殊相対性理論が高エネルギー領域において破れているという主張や,宇宙背景放射の観測の間違い・宇宙線と光子の反応確率の間違いという主張の他,特殊相対性理論が高エネルギー領域において破れているという主張まであった.(ちなみに,UHECRのエネルギーレベルは,これから稼働しようとする素粒子加速器LHCの 7 TeV = 7 x 10^{12} eV をはるかに凌ぐ.)由来を活動銀河核とする場合には地球までの距離が100Mpc以内である必要があった.

今回の報告では,同じAGN起源とされるペアの宇宙線が5組あり,今後のデータを増やすことによって,銀河中心の磁場の解明へと理論が進むことと考えられる.

The Pierre Auger Collaboration, Science, 318, 938 - 943 (9 November 2007)
2007/11/9 PhysicsWorld Cosmic-ray mystery solved at last