【2008年】PRLが創刊50年

物理業界(少なくとも素粒子・相対論分野)では,載ったら自慢できるほど敷居が高い学術雑誌であるPhysical Review Letters (PRL) 誌(アメリカ物理学会発行)が今年創刊50周年を迎えた.

今年1年間をかけて,50年間にマイルストーンとなった重要な論文を PRL Retrospectiveのページで紹介してゆくようだ.本日現在では,1958年から1961年のまでの論文が年ごとに数本づつ紹介されており,重要度やその後のノーベル賞取得情報と共に論文のpdfのダウンロードが可能になっている.

PRLは,1論文4ページまでという条件付で速報性と重要性が売りの雑誌である.姉妹誌のPhysical Review A/B/C/D/E誌に比べて,論文を査読(peer review)する査読者に対する要求も高い.通常,PRLの査読者は2名,Physical Reviewの査読者は1名である.PRLの査読者には,期限が「1週間程度」で査読報告書(referee report)を要求される.PRLには時として,ケチの付けにくいつまらない論文が掲載されることもあるが,重要性を編集者が認めれば査読なしで論文掲載となることもある.

査読システムの歴史を,編集者がEditorial: Peer Review per Physical Reviewのページで披露している.それによると,1960年頃までは,Physical Reviewの論文は,ほとんど編集者が受理/受理せず(accept/reject)の判断を決定していたようだ.(アメリカ天文学会のAstrophysical Journal Letters誌も,かつてはノーベル賞受賞者のChandrasekharが一人で仕切っていた,という話もある).PRLの創刊時もその方針だったが,創刊数ヶ月後にはrefereeシステムが採用され,60年代には査読者が1人,70年代には2人のシステムに成長していった.しかし,それでも高エネルギー物理の実験に関わるような大人数著者の論文は査読なしで掲載されたり,80年代の高温超伝導体の論文の嵐を迎えてからは編集者自身が掲載するかどうかを判断する例が併用されていく.そのような意味で,編集者は,査読者の意見をアドバイスと位置づけている,と明確に宣言している. 現在,投稿されている論文のうち,20%のものは,査読なしの編集者判断で掲載されているそうである. 「速報性」を第一にした編集者の判断は,その論文内容が読者(研究者)によって精査されてゆく過程を信用したものであり,その意味でスタンスは正しいと言えよう.

ところで,今年から,Physical Reviewの編集者は,refereeの格付けを今年からofficialに始めることを連絡してきている.現在登録されている42000人のrefereeから,毎年130人程度を選び出し, "Outstanding Referees"(優秀な査読者)として表彰状とネクタイピンを贈呈するそうだ.春のアメリカ物理学会で贈呈式をするそうであるが,その場では,誰が何の論文のrefereeだったかが明らかにされるのだろうか??