【受賞予想】Thomson ISI社のノーベル賞受賞者予想

今年のNobel賞の発表が間近になり,受賞者予想の記事がいくつか出た.9/25 朝日新聞夕刊では, Thomson ISI社の 予想記事 (9月5日付で発表)日本語版もあり)が紹介されていた. このサイトでは, 2004年の予想記事2005年の予想記事 を紹介しているが,今年も概要をまとめておこう.

Thomson ISI社は,ここ数年,学術文献の引用件数の高い研究者,という視点からノーベル賞受賞者の 予測を発表している. (2002年の予想, 2003年の予想, 2004年の予想, 2005年の予想, まとめた一覧表は,昨年の記事参照のこと.) ISI社の予想の的中率は,2002年以来,候補として名を挙げた 27名のうち4名がノーベル賞を受賞しているらしい(私のカウント1名と合わないが..).

今年は,ノーベル賞受賞の可能性のある研究者として、2006 Thomson Scientific Laureates (トムソンサイエンティフィック栄誉賞)として,以下の人々を挙げている.科学3賞のみ紹介する.

物理学 インフレーション理論の構想(Guthによる)と、その後のさまざまな改良(主にLinde、Steinhardtによる)への貢献に対して
Alan H. Guth
Andrei Linde
Paul J. Steinhardt
重要で活発な研究分野を確立し、高密度情報蓄積の飛躍的進歩を導いた巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistance Effect:(GMR))の発見に対して
Albert Fert
Peter Gruenberg
世界中で高速光ファイバー通信ネットワークに革命をもたらしたエルビウム添加ファイバー増幅器(EDFA)の開発に対して
Emmanuel Desurvire
中沢 正隆
David N. Payne, FRS
化学 DNA、RNA、たんぱく質などよりも小さな低分子を用いて細胞回路と信号の伝達経路を解明、修正し、新しい重要な生化学分野の推進力となった先駆的な研究に対して
Gerald R. Crabtree
Stuart L. Schreiber
有機金属化学および触媒に関する多くの影響力のある研究と、驚くべき電気的・機械的・界面的・光子的特徴を持つ新しい物質の研究に対して
Tobin J. Marks
広範囲にわたる有機合成化学への貢献、特に商業的にも人間の健康にも影響を及ぼす重要な天然生成物の合成に対して
David A. Evans
Steven V. Ley, CBE, FRS
医学・生理学 細胞内で遺伝子および代謝形質転換を編成する多様な核内ホルモン受容体の解明に対して
Pierre Chambon
Ronald M. Evans
Elwood V. Jensen
哺乳類の遺伝子解明に革命をもたらし、人間の遺伝疾患の直接治療(体細胞遺伝子治療)の希望を抱かせる、「遺伝子標的法」として知られる相同組み換え技術への貢献に対して
Mario R. Capecchi
Sir Martin Evans, FRS
Oliver Smithies
DNA指紋鑑定法の先駆的な発明と、法医学的分析や遺伝疾患、ヒトゲノムの変異についての医学的研究・理解にいたるまでの実用化に対して
Sir Alec J. Jefferys, FRS

以下では物理学賞のみに限って少し,上記予想を私的に検討してみたい.登場する氏名は,昨年までの予想に 登場した人を元にしている.
  • 「インフレーション宇宙モデル」は無理だろう.今年になってWMAPが宇宙背景輻射が インフレーションモデルと無矛盾であることをデータで示したが,まだNobel賞の 「実証可能な事実に贈賞」という精神には遠い.インフレーションモデルが受賞するならば, それより先に,宇宙背景輻射のCOBEかWMAPプロジェクトの方が実証的である. それにThomson ISI社の上記予想では, 提唱者の一人,佐藤勝彦が抜けている.論文の引用数は少ないが,佐藤が外された場合,日本人研究者は大きく クレームを出すことになろう.
  • ISI社は,昨年は「ストリング理論とM理論」のGreen-Schwartz-Wittenの 3人を組にした受賞を予想した.Nobel賞の 贈賞理念から言って,これも有り得ない.論文引用数だけの統計だと,最近素粒子・宇宙分野でM理論が流行していることが裏目に出て,誤った結論になってしまう良い例である.
  • ここ数年,物理学賞は実験・観測による「発見」に対して贈賞されていたが,2004年は理論,2005年は実験が贈賞対象であった.今年は理論の可能性もある. そうなると,「クォークは6種類である」と理論的に予言し,それが4年前に実験で確認された「小林・益川」理論のペアは,今年は狙えるかもしれない.
  • ブレークスルー的な発見を重視するなら 「青色ダイオード」の「中村」かもしれない.あるいは,「電子型銅酸化物超伝導体の発見」の「十倉」かもしれない.
  • 4年前がニュートリノだったので,「ニュートリノに質量」の「戸塚」はまだ尚早である.今年はないであろう.
  • 理論をサポートした「電子線ホログラフィーの開発とアハラノフ・ボーム効果の実証」で「外村・Aharonov」というペアも考えられる.

今年の物理学賞の発表は10月3日である.