【2006年】PhysicsWebのベストニュース

イギリス物理学会誌PhysicsWebが,2006年の物理ニュース ベスト12を12月22日付で発表した.毎月のニュースから1つずつをピックアップした 形式にしており,ベストの順位を示すものではない.

1月量子計算の原理となる「もつれ」の実現(Light and atoms get entangled)
量子計算を実現するための基本的なメカニズムとなる量子情報のもつれ(entaglement)の実現が2つの研究グループによって報告された.まだ,もつれ状態は壊れ易く短時間しか持続できないが,実現への確実な一歩となった.
2月火の玉実験(Great balls of lightning)
30cm大の火の玉現象は,プラズマであると考えられていたが, 電子レンジを改良して,火の玉を実現する実験に成功した,とイスラエルの 研究者が報告した.「空中を漂うぶるぶるふわふわ熱いクラゲ(“hot jellyfish, quivering and buoyant in the air”)」と本人達が表現.
3月ハリケーンの強さは海洋の温度に関連(Hurricane intensity linked to warmer oceans)
2005年のカトリーナKatrinaに代表される近年のハリケーンの巨大化は, 海面の温度に関係している,という警告を気象物理学者が発した.
4月 反物質の実験検証へ (Fermilab probes matter-antimatter transitions)
宇宙に反物質よりも物質が多いのは,電荷のパリティの破れであると考えられているが,フェルミ加速器研究所で電荷パリティの破れを証明するB中間子から反B中間子への遷移現象が実現された.
5月3次元光学格子の実現(Quantum gases in 3D)
レーザーの波間に原子を閉じ込める光学格子(optical lattice)によって, 原子間相互作用の詳細な実験が可能になると期待されているが, 2つの研究チームが独立に3次元での光学格子をボゾンとフェルミオンの 両方で実現したことを報告した.
6月ガラスの復元(A fresh look at glass)
ガラスは,「液体」「固体」といった分類には当てはまらない不思議な性質を持つ. 高エネルギー電子を照射すると,予想外にも,ガラスは元の状態を復元することが報告された.
7月グラフェン(New look for graphene)
今年の最も人気のある物質賞があるならば,PhysicsWebは,グラフェン(graphene,厚さが原子1個の炭素の二次元シート)を選ぶ.2004年に初合成されて以来,特異な性質を示すものの強度不足で実用性が低かったが,頑丈な高分子鋳型に埋め込む技術が開発された.
8月科学的創造性を測る C-index(World's most creative physicist revealed)
論文の引用数を元に 科学的創造性を計る指標 c-index が提案された. 物理では,P.W.Anderson (物性物理), S. Weinberg (場の理論) , E. Witten (紐理論), がベスト3で,いずれもプリンストン大学に縁があるという. (当サイト 2006/8/20
9月高温ボーズアインシュタイン凝縮(BECs confound at higher temperatures)
2つの研究チームが独立に,高温でのボーズアインシュタイン凝縮(BEC)を実現した,と報告した.一方は,19Kで,他方は室温で実現,との報告だが,後者はBECと呼べるかどうか論争が起きている.
10月透明人間スーツ(Invisibility cloak unveiled in the US)
物質の形状に沿って電磁波を周回させるような物質が考案され,実現された. 負の反射率を持つような性質のため,将来的には透明人間スーツが実現できることになる.
11月電子のスピン測定(Spin measured without destruction)
電子のスピン効果が見られるような電子回路を作ることが長い間望まれてきた. 要所は,スピン状態を破壊せずに測定する技術がないことであった. 将来の量子計算機には欠かせない技術であるが,その測定をレーザーを用いて 初めて行った,と報告された.
12月火星に水(Water flows on Mars)
火星探査機により,火星に堆積層があることが発見され,過去7年間に2カ所で 水流が存在した痕跡である,と発表された.(当サイト 2006/12/10