【2006年】サイエンス誌「10大ブレークスルー」

米科学誌サイエンスは,12月22日号で,科学界の2006年の画期的成果「Breakthrough of the Year」を発表した.(2005年の「10大ブレークスルー」は,当サイト 2006/01/02

1位「ポアンカレ予想」の解決(The Poincaré Conjecture--Proved)
ポアンカレ(Henri Poincare)が1904年に提出した予想で「3次元球面の特質を持つすべての3次元図形は3球面(3-sphere)に変形できる」というもの(当サイト 2004/09/12) ロシアの数学者ペレルマン(Grigori Perelman)が,2002-2003年に発表した3つのプレプリントを元に,本年これらを補う研究が相次いで発表され、ほぼ解決とされた。ペレルマンは、フィールズ賞を初めて辞退する事態を招いたことでも話題になった.(当サイト 2006/08/23
2位人類の化石からDNA抽出(Digging out Fossil DNA)
今年は,ネアンデルタール人型の種族の発見から150年だが,現在では これらの化石のDNAの塩基列を100万のオーダーで解析する作業が進んでいる. 欧米の2つの研究グループは,独立にDNAの解析結果を発表し,古代から現代に至る人類の進化の境は45万年前(これまで化石やミトコンドリアDNAで得られた値とほぼ同じ)であることを明らかにした.
3位氷床の減少(Shrinking Ice)
グリーンランドと南極大陸の氷床(ice sheets)が加速度的に溶け出していることが明らかにされた.今後の予想は立てにくいが,海抜の低い地域が海面下に沈むことは時間の問題であろうと考えられている.
4位古代魚の陸生は3億7500年前(Neither Fish nor Fowl)
古生物学では,陸生を始めた頃の魚の化石が発見された.頑丈についたヒレから 約3億7500年前のものと推定された.
5位電磁波を旋回させる物質(The Ultimate Camouflage)
ある特定の波長の電磁波を旋回させる構造の物質の存在が予言され,試作された. C形のリング状にすれば,後方のものを映し出す透明人間服ができるかもしれない.
6位加齢性黄斑変性症の治療薬(A Ray of Hope for Macular Degeneration Patients)
加齢黄斑変性症(AMD, age-related macular degeneration)の治療薬として, ラニビズマブ (ranibizumab) が有効である,という報告がなされた.患者のうち, 約3分の1に効果があったという.
7位生物多様性の起源(Down the Biodiversity Road)
ゲノミクスの成果として,新しい環境での生物進化が引き起こされるか,という 議論が可能になってきた.
8位顕微鏡の解像度の向上(Peering beyond the Light Barrier)
これまでは,光の半波長(200nm程度)が顕微鏡の解像度の限界とされていたが, 回折限界の改良などの工夫により,分子やタンパク質の微細構造を顕微鏡で見ることが可能になってきた.生物研究の進展が期待されている.
9位記憶の持続(The Persistence of Memory)
脳の記憶のメカニズムとして, ニューロン間の長時間 相乗作用(LTP, longterm potentiation)が考えられていたが,今年は,その 証明が可能になりつつある.
10位piRNA(Minute Manipulations)
遺伝子発現を止めるRNA分子の研究が盛んに行われているが,今年は, Piwi-interacting RNAs (piRNAs) と呼ばれる新種が発見され,その 働きや生物中の存在場所について研究が進められている.

また,同時に「今年の残念な出来事(breakdown of the year)」というコラムには、韓国ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク,Woo Suk Hwang)教授(当時)らがサイエンス誌に掲載した論文が捏造と判明したことに代表される「科学の不正行為」事件を挙げている.あらゆる組織や臓器の細胞になりうる胚性幹(ES)細胞株を、ヒトの体細胞と卵子から作ったという画期的な報告が捏造と発覚したファン氏の事件は,ちょうど1年前の大きなニュースだった. (当サイト 2006/01/02