【書籍紹介】岩波数学辞典 第4版

岩波の数学辞典が22年ぶりの改訂を行い,第4版となった(2007年3月15日発行,6月30日まで特別定価15000円+税,以降は17000円+税,岩波書店,《amazon.co.jp》).値段は5割アップしたが,今回はCD-ROM付であり,CD-ROMには第3版をスキャンしたpdfファイル(277MB)と第4版をTeXから生成したpdfファイル(37MB)が収録されている.つまり,第4版の内容は,pdfを表示するソフトウェアで文字検索が可能になった. CD-ROM一枚に2000ページの辞典が2冊入っているというのも驚きだが,必要箇所をコピーしたいときには,pdfで該当ページを印刷すればよいので,使いやすくなった.pdfの各ページに該当項目のリンク機能が使われていないのは残念だが,辞典内にあちこち登場する語句を素早く検出できる手段が提供されたのはとても便利である.

せっかくなので,このサイトに関連する語句を2つの版で読み比べてみた.
「アインシュタイン」・・・これはどちらも一番始めに登場する項目である(ちなみに最後の項目は「和算」).第4版では, 有名な3大業績の紹介文に 1905年という年号が 入った他,地名のカタカナ表記化,特許技師になった年の追加,ベルリン大学教授となった年の修正,参考文献の入れ替えがされている.また,「一般相対性理論の帰結が日食観測によって実証された」(第3版)との記述は「一般相対性理論の帰結である光線の屈曲が日食観測によって実証された」(第4版)と分かりやすく直されている.この項だけ見ても改訂の大変さが推察される.

「相対性理論」・・・これは「A歴史」項目の末文が大きく変わった.

  • 「なお,太陽系以外の問題も相当に研究されているが,その結果は実験的に判定することが難しく,一般相対性理論の適用については疑問も残されている」(第3版)
  • 「1960年代から,太陽系以外の問題も研究され,一般相対性理論の適用について実験的にも肯定的結果が多く見出されている」(第4版)
第3版出版時の1985年では,すでに一般相対性理論は物理学者の間では揺るぎないものとなっていたと思うが,辞典執筆者はまだ懐疑的だったようだ(これも驚き).改められて何よりである.その他の本文はほとんど変更が無いが,参考文献欄では,おそらく最新の研究成果に言及したかったのか「[10] http://www.livingreviews.org/の諸総合報告」と一言触れられている.このサイトは,一般相対論の分野ごとのレビューをupdateしていくサイトで便利なのだが,著者によっては偏ったレビューにもなっているので(レビューというのはそういうものかもしれないが),注意が必要である.

第4版では項目も増えているが,ほとんど意味のない「宇宙物理学」という項目などは無くても良かったのでは,とも思う.ともあれ,内容の網羅さと充実さには,執筆者の労や出版社の努力には感謝してもし尽くせまい. これまでの岩波の数学辞典と同様に翻訳され,海外の人にも役立つことを望みたい. そして, pdfファイルはコピーが容易であるが,今後の出版文化を守る意味で,むやみにコピーせず,きちんと辞典を購入する意義をここで確認しておきたい.