今週のサイエンス情報
- 【一般相対論】Einstein@home スタート
以前,このサイトで紹介したこともある
「Einstein@home」が,このほど本格的な稼働状態に入った.
各家庭のパソコンを利用して,米国の重力波干渉計LIGOと,独英のGEOで得られるデータを解析し,中性子星やブラックホールからの重力波を見つけだそうとするプロジェクトで,米国物理学会の支援のもと,世界物理年のイベントの一つとして進められている.
誰でも,http://einstein.phys.uwm.edu/のサイトより,
スクリーンセイバーの形態でソフトウェアがダウンロード可能になっている.
- 【惑星科学】500万年前の火星の赤道付近に氷の海
火星の赤道付近で、過去500+-2万年以内に形成された氷の海らしい地形を発見した,と欧米チームがNatureに発表した。欧州宇宙機関の探査機Mars Expressの画像を分析したもので,800Km x 900Kmの範囲で,深さは45m程.現在でも氷の海の存在が確認されれば「生命探し」の重要な候補地になるという。
3/17 京都新聞,
J. B. Murray et al,
Nature 434, 352 - 356 (17 March 2005)
今週のサイエンティスト情報
- 【21世紀COE】平成16年度採択28校の事業概要
「21世紀COEプログラム」の平成16年度採択分である「革新的な学術分野」28件(24大学)について、各大学が作成した「事業概要」を文部科学省とりまとめ,公開した.文部科学省. 当サイトでもリンク作成.
今週のセレブ
- 【顕彰】
日本学士院賞
『学術上特にすぐれた論文・著書その他研究業績を顕彰』する日本学士院賞(日本学士院 )の受賞者が14日に発表された.
毎年9件以内で,賞状,賞牌,賞金(1件100万円)が授与される.
2005 | 日本学士院賞/恩賜賞 |
加藤和也 | 京都大 | 整数論,「数論幾何学の研究」
|
2005 | 日本学士院賞 |
塩川徹也 | 東京大 | フランス文学・思想,「パスカル考」
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2005 | 日本学士院賞 |
木村周市朗 | 成城大 | 社会政策・社会経済思想史,「ドイツ福祉国家思想史」
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2005 | 日本学士院賞 |
清川雪彦 | 一橋大経済研究所 | 開発経済学,「アジアにおける近代的工業
労働力の形成―経済発展と文化ならびに職務意識」
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2005 | 日本学士院賞 |
中村卓史 | 京都大 | 宇宙物理学,「ブラックホールの形成と重力波放出の
理論的研究」
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2005 | 日本学士院賞 |
榊裕之 | 東京大生産技術研究所 | 電子工学,「半導体ナノ構造による電子
の量子制御と強磁性の研究」
|
2005 | 日本学士院賞 |
大野英男 | 東北大電気通信研究所 | 半導体工学,「半導体ナノ構造による
電子の量子制御と強磁性の研究」
|
2005 | 日本学士院賞 |
喜田宏 | 北海道大 | 獣医微生物学,「インフルエンザ制圧のための基礎的
研究―家禽,家畜およびヒトの新型インフルエンザウイルスの出現機構の解明と抗体によ
るウイルス感染性中和の分子的基盤の確立」
|
2005 | 日本学士院賞 |
北村幸彦 | 大阪大 | 病理学,「KIT受容体を介した肥満細胞とカハール
介在細胞の分化と癌化」
|
2005 | 日本学士院賞 |
柴崎正勝 | 東京大 | 医薬品合成化学,「不斉分子触媒の創製と医薬化学へ
の展開に関する研究」
|
連載「一般相対性理論の専門書」(6)
Clifford M. Will Theory and experiment in gravitational physics (Revised edition) | この著者にしか書けない専門書 レベル=分野を特定した専門書 お薦め度=☆☆☆☆ | 書名 | Theory and experiment in gravitational physics (Revised edition) | 著者 | Clifford M. Will | 書誌事項 | Cambridge Univ. Press; 1993; 396 pages; ISBN: 0521439736 《amazon.co.jp》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com》 | 解説 | ある分野を語るのに決して外せない,という本がある.「一般相対論の検証」分野では,このWillの教科書は絶対に外せない.1981年に初版,93年に改訂版が出て以降も,Willの後にも先にもWillなし,といった感のある,孤高の存在である.これまでに,一般相対性理論を改良(?)したさまざまな重力理論が提案されたが,ほとんどの理論は実験によって淘汰されている.そのプロセスを見事に整理し,解説してくれるのは,いつもWillである.「Einsteinは正しかったか」という一般書をpopular reviewとするならば,こちらはtechnical reviewと言える.
本書の核は,pameterized post-Newtonian (PPN)形式の解説と,諸々の重力理論から得られるPPN運動方程式,及び一般相対論から帰結される高次post-Newtonian形式,そして種々の実験による一般相対論の検証の現状である.PPN形式は,さまざまな重力理論をパラメータで表示できるようにした"book-keeping" systemである.そして理論の検証実験は,ことごとくdeadly test (その理論にとって命取りとなるテスト)でもある.Einsteinによる一般相対性理論が,"reasonableness" (もっともらしさ)を元に構築された一番シンプルな理論であるのにも関わらず,すべてのテストをパスし,生き残っているということは,他の物理では考えられないことだ....結論は周知の事実であるが,そこに至る説明や語法は,Will氏独特の言い回しだ.
私は,Will氏が1974年のScientific American (vol 231, pp25-30)の記事につけた重力理論の絞り込みの図が好きで,Will氏の前でセミナーをした時にその図をビューグラフで使ったことがある.それを見て彼は,「これは大学院生の時に書いたんだ」といつもの意味深な苦笑いをしていた.一般ウケするような図は,残念ながらこの教科書には皆無である.その辺り,読者層をきちんと心得ている.popular reviewにも書いているが,彼は,Thorneの元で「一般相対論の検証」という分野を開花させ,それ以後ずっと一線を走り続けている.MTWの読みやすさはきちんと踏襲されていて,全部を通読しなくても,表やまとめの部分が非常に分かりやすく,表の部分だけコピーしてビューグラフに即刻利用可能となるところが,とても重宝な本である.
実験技術の進歩は速く,10年以上も前の教科書では,到底現状には追い付けなくなっている.Will氏は,「The Confrontation between General Relativity and Experiment」というタイトルで数年ごとにレビューを書き直していて,現在の最新版は,2001年のものがLiving Reviews in Relativity 2001-4で入手できる.
一般相対論研究が,重力波検出を中心に進むまでには30年以上を要した.数年前に彗星の如くに登場したbrane-world 高次元時空モデルは,それまで地道に重力理論の検証実験を行っていた研究者を表舞台に立たせることになった.そのような研究の流れを地道に作ってこられたWill氏には敬服せざるを得ない.一般相対論を盲目的に信じるのならば必要の無い本であるが,自分の理論はどのように検証可能か,という物理としての基本的な視点を持つのならば,本書を傍らに置くことに絶対損はしないだろう. 2005/3/21 |
今週のサイエンス情報
- 【天体物理】星の質量の上限値,太陽の150倍か
Hubble宇宙望遠鏡を使った銀河系内のアーチーズ星団(Arches cluster, 約2万5000光年,
誕生後200万〜250万年の若い星団)の観測から,恒星の質量の上限値が太陽質量の150倍であろう,
という発表がなされた(Hubble News Release,D. F. FIGER, Nature 434, 192- 194 (2005) ).
これまでは,星形成過程の理解が不完全であることと銀河系の探査が不十分であるために,星の質量の上限は太陽質量の100-1000倍であろう,とされていただけだった.アーチーズ星団は,少なくとも太陽質量の約500倍の質量の星があると考えるのに十分な大きさがあり,かつその最も重い星々はまだ観測可能なほど若い.また,星の誕生時の分子雲が存在しない程度には年老いており,星団までの距離は確立されていて,個々の星を識別できるほど近くにある.
太陽質量の 130倍以上の初期質量をもつ星は存在しないことが観測により判明し,
質量関数による外挿により,太陽質量の約150倍が星の質量の上限値である,と結論した.3/10 京都新聞
3/10 朝日新聞
3/9 PhysicsWeb
- 【地震調査】30年内の大地震,確率最大16% 神縄・国府津―松田断層帯
政府の地震調査委員会は9日,神奈川県と静岡県に分布する神縄(かんなわ)・国府津―松田断層帯で30年以内に大地震が発生する確率を最大16%とする長期評価(30年以内の発生確率を0.2-16%に,M8程度としていた想定していた地震の規模はM7.5程度に改めた)をまとめた.1997年に3.6%と公表していたが,その後の調査で地震の頻度が前回の評価より多いことが判明したため修正した.全国の主要断層帯で最も高い確率となった.同時に,群馬県と埼玉県に分布する関東平野北西縁断層帯では,将来,M8.0程度の地震の恐れがあるとする評価(30年以内の地震の発生確率は,ほぼ0-0.008%)も公表した.
3/9 朝日新聞,地震調査研究推進本部
- 【超電導技術】リニア実験さらに5年,コスト低減必要と評価委
山梨県で走行試験中の超電導磁気浮上式リニアモーターカーについて,国土交通省の実用技術評価委員会は11日,コストを低減するための技術開発がさらに必要だとする評価書をまとめた.2000年度からの5年間の実験で実用化への技術基盤は確立したとしているが,05年度以降も5年程度の走行試験を求めており,1999年に続き実用化は先送りされることになった.評価委は,今後の課題として(1)リニアの動力源となる超電導磁石や車両のメンテナンスを含めた一層のコスト低減のための技術開発,(2)さらなる長期耐久性,(3)営業線適用に向けた走行試験−−が必要と指摘している.(共同通信)
3/11 JR東海,3/11 京都新聞
- 【訃報】ハンス・ベーテ博士死去
Hans Bethe 博士(米Cornell 大名誉教授)が6日,自宅で死去した.98歳だった.
ナチス支配下のドイツを脱出し,1935年,Cornell 大に移った.1935−38年に,
異なる核反応のいわゆる「カーボンサイクル,carbon cycle」と呼ばれる恒星内部の
核融合反応の仕組みを明らかにし,その業績で1967年にノーベル物理学賞を受賞した.
1943年,Oppenheimer博士に招かれ,Los Alamos 国立研究所の初代理論部長として
Manhattan 計画に深くかかわり,原爆の完成に貢献した.戦後は,核実験停止運動を進め,水爆開発のEdward Tellerと衝突し,
1950年に水爆開発反対声明を発表したほか,部分的核実験禁止条約(1963年)の交渉団にも加わった.1997年には,クリントン大統領に書簡を出し,水爆などの研究が核軍縮の流れに害を及ぼすとして,「米国はいかなる種類の大量破壊兵器の開発からも手を引くと宣言する時だ」と訴えた.2003年1月,イラク戦争反対声明に加わった.3/8 朝日新聞,
3/8 PhysicsWeb
今週のサイエンティスト情報
- 【科学技術政策】科学技術研究の効率,欧米の5-6割 学術会議指摘
日本学術会議は,研究資金と研究者数を「国が投入した資源」,論文数や特許出願数などを「それによって達成された成果」として,国際比較した.それによると,日本は重点4分野(生命科学,IT,ナノ・材料,環境)で,米国の半分の資源を投じているのに成果は4分の1で,効率は米国の5割.欧州と比べても2倍の資源に1.2倍の成果で,6割の効率とまとめた.
そして「日本の効率が極端に悪いことが客観的なデータで明瞭に浮かび上がってくる」と指摘し,科学技術担当相に2月下旬,改善を申し入れた.科学技術基本計画における重要課題に関する提言
これに対して,科学技術政策の基本計画を策定中である文部科学省は,
「日本では大学が論文の7割を書き,研究費は2割しか使っていない.産業界のデータも一緒くたにするのはナンセンス」と反発.大学だけに絞れば,論文の生産効率は「いい勝負」と主張した.しかし,文科省側も,論文の数はともかく,他の研究者に引用される論文数でみた「論文の質」では欧米に大きく水をあけられていることは認める.
3/12 朝日新聞
今週のセレブ
- 【顕彰】Templeton賞
篤志家Templeton氏が1973年に創設したTempleton賞の今年の受賞者は,
Charles Townes氏
(物理学者,メーザー・レーザーの開発者)
である,とアナウンスされた.Templeton賞は精神的現実についての研究または発見」を授賞対象としており,毎年一人.賞金は約1.5億円.物理関係では,Freeman Dyson, Paul Davies, John Polkinghorne and George Ellis に続き4人目.
3/9 PhysicsWeb
今週の「重点分野の見直し」
今週の記事にもあるように,政府の科学政策では,重点4分野と言えば,「生命科学,IT,ナノ・材料,環境」を指す.
第三期科学技術基本計画(2006〜2010年度)の検討の中でも,この4分野を踏襲しようとしている.これに対して,
日本学術会議が,重点研究分野
全く異なる側面から提案する,という記事が,
3/4 科学新聞に掲載された.
面白かったので,科学新聞から,以下を要約抜粋.
従来の重点4分野を目的や学問分野といった観点から見直すと,途端に不明瞭になる.ナノ・材料分野は,ナノサイズでものをみるという観点から研究を切ったに過ぎず,極端に言えば,生物だろうが無機物だろうがナノサイズで見たりコントロールすれば,その範囲に入る.環境分野は,環境改善という目標を達成するための研究であればいい.重点分野には含まれないがエネルギーなどは当然入れるべきだ.ITは,量子コンピューティングに向けた研究など,最先端のものを除けば半分以上は他分野研究との融合であり,残りは企業が行うべきサービスあるいは研究だ.バイオは基礎生物学から医療,農業なども含む.つまり重点四分野はそれぞれ側面の異なる分野分類になっており,基本計画の成果を検証する際にも,投資と効果を定量的に比較することが難しい.
2月23日に開かれた総合科学技術会議の基本政策特別委員会では,どのように重点分野や重点領域を決定していくかという方法論などについては全く意見が出ず,自分の分野では成果が出ており今後も投資していくべきといった“陳情”が意見の中心になった.
2月24日の日本学術会議運営審議会では「日本の科学技術政策の戦略(仮称)」という文書が議論の対象になった.国のビジョンを「品格のある国家像」「アジアとの信頼関係構築」としたとき,国家目標は環境と経済の調和の取れた両立のモデル国家になること.これらを10項目に細分化し,その実現に貢献することこそ科学技術の使命だと位置付けた.
- 民主社会の実現(「公」の概念確立,三権分立の確立,市民社会への転換)
- 共生社会の実現(女性の社会進出支援,子育てを楽しむ社会,住居スペースの倍増)
- 国の安全確保(安定的国際関係確立,品格ある国の姿実現,戦略的国際共同研究)
- 社会システム改革(雇用・年金・社会保障,地域医療の再編 1940年体制の転換)
- 教育システム改革(日本語教育の充実,多様な価値観醸成,人間力の養成)
- 産業・経済再生(基幹産業の育成,金融システム改革,個人能力の活用)
- 自然との共生(農林産業の再構築,植林政策の見直し,都市への自然の導入)
- 国土と地域の再生(都市機能の再構築,地域社会の再構築,中山間地域の管理)
- 情報・通信システム整備(情報基盤の骨格形成,インターネットガバナンス,情報循環の実現)
- エネルギーと環境(クリーンエネルギー,省エネルギー社会,リサイクル社会).
これら個々の国家目標については,2020年を目指し三段階の5ケ年計画を打ち立てるべきとしている.
日本学術会議は,科学者210名から構成され,科学に関する重要事項を審議し,
科学者の意見を広く集約し,科学者の視点から中立的に政策を提言する機関.
これに対して,総合科学技術会議は,閣僚と少数の有識者議員から構成され,
国全体の科学技術を俯瞰し,総合的・基本的な科学技術政策を企画立案・総合調整する機関.それぞれの機関の立場が見えて,いとをかし.
連載「一般相対性理論の専門書」(5)
Clifford M. Will アインシュタインは正しかったか (原題 Was Einstein Right?) | この著者にしか書けない入門書 レベル=入門書(数式なし), お薦め度=☆☆☆☆☆ | 書名 | アインシュタインは正しかったか (原題 Was Einstein Right?) | 著者 | Clifford M. Will (日本語版は,松田卓也,二間瀬敏史 (翻訳), クリフォード・M・ウィル (著)) | 書誌事項 | TBS ブリタニカ; 1989; 287 pages; ISBN: 4484881128 (原著はBasic Books, 1986/1993, ISBN: 0465090869) 《amazon.co.jp》 《bk1》 《amazon.com》 《barnesandnoble.com》 | 解説 | 私がこの本に触れたのは,大学3年の頃だった.ちょうど,相対論の研究室に入ることが決まった時に本屋に平積みにされていて,一晩で読み終えたことを覚えている.まだEinstein方程式までを理解していなかった頃だが,これから相対論は面白くなりそうだ,と勇気づけられたことを思い出す.
この本は所謂「とんでも本」ではない.「一般相対論の実験的検証」という新しい分野を開拓し,今でもリードしているWill氏による,一般向けのエッセイである.しかし,一般人も,専門家もその内容を楽しめる,という良く出来た本で,1987年の米国物理協会(AIP)著作賞受賞・1986年のNew York Times Book Reviewのベスト200,10カ国での翻訳版が出る,という経歴を持つ.私はWill氏の隣の部屋で3年間ポスドクをしたが,一度彼に「私の本には日本語訳もあるんだよ」と言われたことがある.「私の持っている日本語訳の本には著者のサインがありますよ」と切り返すと,彼は以前来日したときにサインをねだった学生を思い出せずに困った様子だった.
本の内容は,タイトルの通り,「一般相対論は,どこまで正しいか」という疑問と,その実験に対するレポートで,Einstein自身が予言した,3つのテスト(重力赤方偏移,水星の近日点移動,太陽による光の曲がり)についての解説の他,Hulse-Taylorによる中性子星連星の発見,金星や火星に対するレーダーエコーの遅れ,Brans-Dicke理論による理論検証の意義などを数式を一つも使わずにテンポよく解説してゆく.いずれもそれらに関わる人間のドラマも含めて書かれているので,愉快である.例えば,NordtvedtがDickeに初めて会う場面はこうだ.
『ノルトベットはディッケに自分の発見を告げ,彼の助言を求める絶好の機会として,ディッケの乗る飛行機を調べ(中略)同じフライトの搭乗券を買った.飛行機の中で彼は,ディッケを捜し,その発見を説明した.ディッケの苦悩は察するに余りある.全く知らない人がやってきて,あなたの理論は等価原理を破っているといっているのだ.』(日本語版 p154)
後に,国際会議でNordtvedt氏の話を聞くときに,私にはこのフレーズが甦ってきて楽しかった.
この本の出版から20年が経ち,今では世界各地では重力波の検出実験が本格的に稼働し,人々はGPSを通じて一般相対論の恩恵を毎日受けている.60年代まで役に立たない理論としてほとんど研究対象にならなかった一般相対論を,これほどexcitingなものにしたのは,この本に登場する研究者達であった.
なお,この本にも書かれているが,Einstein自身は,自分の理論の検証実験にはあまり関心がなかったことはエピソードとして有名である.一般相対論は,理論的にもっともシンプルな帰結だったので,彼にとっては疑う余地のないものだった.これは,今でも多くの研究者が実感している事実だろう.Will氏はその後も「Einsteinは99.9999%正しい」という主旨の学会講演を各地で行っている.
ところで,この本の訳者あとがきに,「ウィル先生の家は広い.プール付きだ.」と二間瀬氏が述べた,と松田氏が書かれている.広さはともかくとして,ウィル先生の家(Washington大から徒歩15分)の庭はすべてプールになっていることをここで暴露しておこう.
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今週のサイエンス情報
- 【人類学】インドネシアの新種人類 ホモ・フロレシエンシスは賢かったか
昨年,インドネシア東部フロレス島で発見された,約1万8000年前まで生存したとみられる身長約1メートルの人類「ホモ・フロレシエンシス」の脳の形を分析した結果,全体的な特徴は原人に近いが,独創的な活動などに必要な部分は,もっと大柄な原人より発達していたことがわかった.脳容積は417立方センチで,推定体重に対する比率は類人猿なみに小さかった.ただし,横から見た脳の形が比較的ぺしゃんこである点などは,原人に近かった.統合的な認知能力や意欲と深く関係がある脳の前面は,原人や猿人に比べて,突き出るような形で非常に発達していた.記憶などに重要な脳の側面も広がっていた.
脳が大きくなるにつれて能力も高まったという,進化の通説が見直しを迫られそうだ.米,豪,インドネシアの研究チームが3日付の米科学誌3/3 Science Onlineで発表した.
3/4 朝日新聞,3/4 京都新聞
今週のサイエンティスト情報
- 【大学情報】
3月1日に配信された大学情報記事から,題目のみ.
【注目記事】立命館大学が「大学行政研究・研修センター」を設立
【大学改革】(1)北海道大と電通が包括提携
【大学改革】(2)帯広畜産大,人材育成でJICAと協定
【大学改革】(3)日本大,総合研究大学院を開設へ
【大学改革】(4)テンプル大ジャパン,国内大と単位互換可能に....当サイト 2/21 既報
【大学改革】(5)上越教育大,小中学校教諭を助教授に
【大学改革】(6)富山大が「マイカップ自販機」を導入
【大学改革】(7)名古屋大が「フェロー」新設
【大学改革】(8)名古屋大が「学内保育所」開設へ
【大学改革】(9)京都大,薬学部に6年制と4年制を併設
【大学改革】(10)関西大,幼稚園から大学院まで高層ビルで一貫教育
【大学改革】(11)滋賀大,独自資格「環境学習支援士」を養成
【大学改革】(12)山口大が成績優秀者の授業料免除
【トピック】(1)国公立大,2次試験の前期日程始まる
【トピック】(2)新司法試験,初年度合格者は900−1100人
【トピック】(3)教員養成学部,20年ぶり増員可能に....当サイト 2/21 既報
【トピック】(4)外国人大学生を学校の講師に−法務省が入管制度改正
【トピック】(5)文科省,デジタルハリウッドに行政指導
【トピック】(6)文科省,LECに行政指導
【トピック】(7)厚労省,キャリア支援員を大学に派遣へ
【トピック】(8)大学生の44%がイラクの位置知らず
【トピック】(9)中教審,第3期委員の28人発表
【トピック】(10)センター試験の平均点など発表
【海外大学事情】(1)中国−大学生の就職率に水増し疑惑
【海外大学事情】(2)仏−高校生が大学入試改革に反対,10万人デモ
【海外大学事情】(3)韓国−ソウル大に日本研究所開設
【IT化】(1)小論文をコンピューターで自動採点−入試センターが試作
【IT化】(2)携帯電話で出欠確認−青森大が新システム導入
- 【学術誌】日本発の経済理論学術誌 発刊
経済理論分野で初めて日本発の国際的学術誌The International Journal of Economic Theoryが創刊された. 京都大と慶応大の経済学分野が文部科学省の21世紀COEプログラムに選ばれたことが創刊のきっかけだという.年4回発行.ミクロ経済学から産業組織論,公共経済学などすべての理論をカバーするという.3/5 京都新聞
- 【研究成果活用】滋賀県が研究者データベースの運用開始
滋賀県は1日,県内の大学の教員,公設研究所の研究員を網羅した「研究者情報データベース「ちえナビ」」の運用を始めた.中小企業や個人事業者らに,大学などの研究成果を活用してもらう狙い.滋賀大や県工業技術総合センターなど10大学と2研究所の教授や講師,研究員ら約2300人が登録されている.
3/1 京都新聞
- 【大学政策】大学国際戦略本部強化事業
文科省が公募へ
文部科学省は,平成17年度に実施する大学国際戦略本部強化事業の公募を開始した.この事業は,各大学等の特色に応じた「国際戦略本部」といった全学横断的な組織体制を整備し,学内の各種組織を有機的に連携した全学的,組織的な国際活動を推進することで,大学等における国際活動を重点的に強化するもの.17年度採択予定大学は10〜20大学程度で,一大学あたり1,000万〜6,000万円程度を5年間受けることができる.モデル事業であり来年度以降の新規採択は予定していない.
2/25 科学新聞,
2/17 文部科学省
今週のセレブ
- 【顕彰】ロレアル・ユネスコ女性科学賞
科学の発展に寄与した女性を毎年表彰している,ロレアル・ユネスコ女性科学賞(L'Oreal-UNESCO Awards for woman in science)の受賞者が発表になった.フランスの化粧品会社L'Orealがユネスコと共同で1998年に創設した賞で,賞金は10万ドル.世界の5地域より一人ずつの受賞形式で,材料科学と生命科学を隔年で対象にしている.今年,Asia/Pacificからは,慶大名誉教授(物理学)の米沢富美子氏が受賞した.
3/4 朝日新聞
- 【顕彰】第1回日本学術振興会賞
日本学術振興会は,日本学術振興会賞審査会(委員長=江崎玲於奈・芝浦工業大学学長)の選考結果にもとづいて,第1回日本学術振興会賞の受賞者25名を決定した.45歳以下の若手研究者の中から優れた研究を進めている研究者を選び出し顕彰することで,その研究を世界トップレベルに発展させることが目的.賞状,賞牌および副賞として研究奨励金110万円が授与される.
科学新聞
今週の「新しいKgの単位の定義」
IOPの発行する学術誌
Metrologia 42 (2005), 71-80 に,
「Redefinition of the kilogram: a decision whose time has come 」という論文が掲載された.著者は,
I.M. Mills (英), P.J. Mohr (米), T.J. Quinn (仏) B.N. Taylor (米), E.R. Williams (米).(2/26 Wired News)
キログラムの定義は100年以上の間,国際キログラム原器の質量と同一であるとされてきた.
この論文では,メートルを含む他の6種類の基本単位と同じく,キログラムの定義も,普遍定数に基づいた新しい定義へと
移行することを提案している.具体的には,アボガドロ(Avogadro)定数とプランク(Planck)定数の普遍定数のうち,
いずれかの値を定めることで,キログラムを再定義する,という提案である.
普遍定数を用いて基本単位を再定義することは,原器のモデルに関して現在把握されている問題点をなくし,
他の計量単位の多くが,7種類の基本単位に基づいているために,他の計量や科学研究結果の精度が上がるはずだ,という.
例えば,現在のメートルの単位は,真空中での光速を299 792 458 [m/s]と固定して定義することで,定義されている.
即ち,「光が 1/299 792 458 秒間に進む距離」という定義である.
プランク定数を用いる場合の,キログラムの定義は,例えば次のような表現になることが考えられるという.
-
プランク定数が厳密に 6.626 069 311× 10^{-34} [J s]となるような静止質量を「1キログラム」とする.
(The kilogram is the mass of a body at rest such that the
value of the Planck constant h is exactly 6.626 069 311× 10^{-34} joule second.)
-
静止している物体のエネルギーが厳密に周波数 [(299 792 458)^2/6 626 069 311] × 10^{43} [Hz]であるとき,
その質量を「1キログラム」とする.(The kilogram is the mass of a body at rest whose
equivalent energy corresponds to a frequency of exactly
[(299 792 458)^2/6 626 069 311] × 10^{43} hertz. )
あるいは,言い換えて,
静止している物体のエネルギーが,
真空中での波長が662.606 931 1 [nm]である光子299 792 458 × 10^{27} 個分に相当する時,
その物体の質量を「1キログラム」とする.
(The kilogram is the mass of a body at rest whose equivalent energy is equal
to that of 299 792 458 × 10^{27} optical photons of wavelength in vacuum of
662.606 931 1 nanometres.)
-
秒速1mで移動している物体のドブロイ波長が厳密に6.626 069 311 × 10^{-34} m であるとき,
その物体の質量を「1キログラム」とする. ( The kilogram is the mass of a body whose de Broglie
wavelength is exactly 6.626 069 311 × 10^{-34} m when
moving with a velocity of exactly one metre per second.)
同様にアボガドロ数を用いる場合は,
-
アボガドロ数が厳密に 6.022 141 527 × 10^{23} [1/mole]となるような静止質量を「1キログラム」とする.
(The kilogram is the mass of a body at rest such that
the value of the Avogadro constant NA is exactly
6.022 141 527 × 10^{23} inverse mole.)
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非束縛状態にあり,静止かつ基底状態にある質量数12の炭素原子を 5.018 451 272 5 × 10^{25} 個集めた時の質量を
「1キログラム」とする.(The kilogram is the mass of exactly 5.018 451 272 5× 10^{25}
unbound carbon-12 atoms at rest and in their ground state.)
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非束縛状態にあり,静止かつ基底状態にある質量数12の炭素原子を 6.022 141 527 × 10^{23}/0.012 個集めた時の質量を
「1キログラム」とする. ( The kilogram is the mass of exactly (6.022 141 527 × 10^{23}/0.012)
unbound carbon-12 atoms at rest and in their ground state.)
国際的に合意が得られれば,2007年10月から,この定義に変更される可能性があるという.
連載「一般相対性理論の専門書」(4)
内山 龍雄 一般相対性理論 | 70年代の日本の宝 レベル=本格的に学ぶ教科書,お薦め度=☆☆☆☆ | 書名 | 一般相対性理論 物理学選書 15 | 著者 | 内山 龍雄 | 書誌事項 | 裳華房; 1978; 406 pages; ISBN: 4785323159 《amazon.co.jp》 《bk1》 | 解説 | 著者自身が序文で述べているように,この本はさらに10年ほど遡った「一般相対性および重力の理論」(山内恭彦,内山龍雄,中野董夫共著,裳華房,1967)をベースにした著作である.両書とも残念ながら現在書店では在庫切れで入手は難しいが,どちらも専門家向けの教科書として,丁寧に書かれた良い本だ.
共著と単著の違いはあるが,両書の構成や文章はとても似ている.67年版にだけある章は「Einstein理論の実験的検証」と「重力理論の正準形式と量子化」「付録:特殊相対論」であり,78年版にだけある章は「Einstein方程式の厳密解」「Einstein方程式の数学的性質」である.
一般相対論のみを扱う日本人による日本語の教科書は,当時はまだ少なく,71年に出版された平川浩正氏の「相対論」や72年の後藤憲一氏の「相対論」(どちらも共立出版)を相当ライバル意識して執筆されたようだ.その辺りの経緯は,内山氏ならではの序文と参考文献欄にて読み取れる.
改訂された項目で一番の特色は,Kerrブラックホールに関する記載の詳しさである.44章には,Kerr解の導出について20ページにわたる説明がある(もっとも,『本書の説明は,Adler-Basin-Schiffer著「Introduction to General Relativity」McGrow-Hill, 1975に負う所が大きい』との記述もあるが).一般相対論では,解であることさえ既知とすればそれを元に仕事ができるものであるが,これほど解の導出に懇切な記載は,その後のどの日本語の教科書にも見当たらない.
その他,この本を特徴づけているのは,スピノール表現をきちんと経由した時空のPetrov分類の解説と,重力場の理論の正準形式に関する記述である.どちらも,60年代に登場した話であるが,いち早く日本語にしたばかりか,現在でも通用するnotationで解説している.
あくまでも公理的な記述に立ち戻って解説する姿勢は,物理の一つの立場としてとても正しい.読者に迎合せず,執筆者としても妥協せずに書き上げられたこの本は,当時の若い世代の研究者を刺激し,今日の日本の相対論研究を拡げるのに貢献したのだろうと考えられる. |
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2005年2月以前の分はここ
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