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Einstein1905.info :: What's New in Science?

2006年9月

物理/天文/宇宙関係のニュースを中心に,ここにコメントします.現在は,blog形式として形式を変更して掲載しています.

2006年 開く 閉じる

年月日科学の進展研究と教育他いろいろ 月下の独迹
** 2006/09/29     【宇宙物理】トーラス構造による大質量星形成
** 2006/09/26     【受賞予想】Thomson ISI社のノーベル賞受賞者予想
** 2006/09/24     【宇宙物理】SOLAR-B打ち上げ成功,「ひので」と命名
** 2006/09/22     【重力物理】連星パルサーによる一般相対性理論の検証
** 2006/09/20     【大学教育】物理と天文の教材交換サイトcomPADRE
** 2006/09/12     【宇宙物理】GravLens Issue 8
** 2006/09/09     【惑星科学】冥王星に小惑星番号(134340)
** 2006/09/05     【宇宙物理】X線フラッシュと中性子星形成
** 2006/09/04     【宇宙物理】星間ガスの重水素D存在比
** 2006/08/30     【イベント】2009年は国際天文年
** 2006/08/29     【おすすめ】失敗知識データベース
** 2006/08/25     【惑星科学】冥王星,惑星の定義から外れる
** 2006/08/24     【宇宙物理】ダークマターの直接証拠
** 2006/08/23     【受賞報道】フィールズ賞,ネヴァンリンナ賞,ガウス賞
** 2006/08/20     【研究評価】科学的創造性を測る C-index
** 2006/08/17     【惑星科学】太陽系惑星の新定義,惑星3つ増えるか
** 2006/08     【アップル】タイムマシン,できる
** 2006/07    【イベント】計算尺をつくる
** 2006/07    【イベント】湯川・朝永 生誕100年
** 2006/07     【科学政策】NASA科学予算の大幅削減
** 2006/06     【宇宙物理】GravLens Issue 7
** 2006/06     【宇宙物理】ブラックホール降着円盤と磁場
** 2006/05     【物理学史】EinsteinとPhysical Review
** 2006/05     【科学政策】取り残された数学研究
** 2006/05     【研究評価】研究分野の流行を示す m-index
** 2006/04     【基礎物理】陽子/電子の質量比は120億年で若干変化
02/07
01/30
01/11
01/02

2005年 開く 閉じる
2004年 開く 閉じる
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by Hisaaki Shinkai


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最近のニュースから

  • 【宇宙物理】トーラス構造による大質量星形成
    太陽質量程度の星形成は,ガスの収縮と降着という理論によってほぼ説明できると考えられている.しかし,太陽質量の10倍程度の星の場合,星の輻射が大きいために十分にガスが十分に降着できず,これらの星形成の理論は未確立である.Beltr?nらは,VLA電波天文台(アメリカ)を用いて,若い星 G24 A1 (距離25000光年,質量は太陽の20倍)とその周りのガス円盤とドーナツ状の輪(トーラス,torus)を観測することにより,星からの輻射が主に軸上に出るために,円盤からのガス降着が可能になり,大質量星の形成が可能になるのではないか,と,非球対称のガス降着モデルを報告した.[M.T.Beltr?n et al, Nature 443, 427-429 (28 September 2006)]

    星の形成モデルには大きく分けて,トップダウン型(大きなガス雲が重力崩壊して収縮して星になる)とボトムアップ型(小片が周囲のガスを降着させたり,合体して星になる)の2種類がある.昨年11月には,後者のボトムアップモデルでは,典型的な星になるまでの成長時間が十分ではない,とする数値シミュレーション結果の報告[M.R. Krumholz et al, Nature 438, 332-334 (17 November 2005)]がPhysicsWeb 2005/11/16に紹介されている.

    Doughnuts cause stars to gain weight 2006/9/28 PhysicsWeb
    How do stars form? 2005/11/16 PhysicsWeb


 
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最近のニュースから

  • 【受賞予想】Thomson ISI社のノーベル賞受賞者予想
    今年のNobel賞の発表が間近になり,受賞者予想の記事がいくつか出た.9/25 朝日新聞夕刊では, Thomson ISI社の 予想記事 (9月5日付で発表)日本語版もあり)が紹介されていた. このサイトでは, 2004年の予想記事2005年の予想記事 を紹介しているが,今年も概要をまとめておこう.

    Thomson ISI社は,ここ数年,学術文献の引用件数の高い研究者,という視点からノーベル賞受賞者の 予測を発表している. (2002年の予想, 2003年の予想, 2004年の予想, 2005年の予想) も含めて一覧表にすると,以下のようになる.ISI社の予想の的中率は,2002年以来,候補として名を挙げた 27名のうち4名がノーベル賞を受賞しているらしい(私のカウント1名と合わないが..).

    今年は,ノーベル賞受賞の可能性のある研究者として、2006 Thomson Scientific Laureates (トムソンサイエンティフィック栄誉賞)として,以下の人々を挙げている.科学3賞のみ紹介する.
    物理学 インフレーション理論の構想(Guthによる)と、その後のさまざまな改良(主にLinde、Steinhardtによる)への貢献に対して
    Alan H. Guth
    Andrei Linde
    Paul J. Steinhardt
    重要で活発な研究分野を確立し、高密度情報蓄積の飛躍的進歩を導いた巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistance Effect:(GMR))の発見に対して
    Albert Fert
    Peter Gruenberg
    世界中で高速光ファイバー通信ネットワークに革命をもたらしたエルビウム添加ファイバー増幅器(EDFA)の開発に対して
    Emmanuel Desurvire
    中沢 正隆
    David N. Payne, FRS
    化学 DNA、RNA、たんぱく質などよりも小さな低分子を用いて細胞回路と信号の伝達経路を解明、修正し、新しい重要な生化学分野の推進力となった先駆的な研究に対して
    Gerald R. Crabtree
    Stuart L. Schreiber
    有機金属化学および触媒に関する多くの影響力のある研究と、驚くべき電気的・機械的・界面的・光子的特徴を持つ新しい物質の研究に対して
    Tobin J. Marks
    広範囲にわたる有機合成化学への貢献、特に商業的にも人間の健康にも影響を及ぼす重要な天然生成物の合成に対して
    David A. Evans
    Steven V. Ley, CBE, FRS
    医学・生理学 細胞内で遺伝子および代謝形質転換を編成する多様な核内ホルモン受容体の解明に対して
    Pierre Chambon
    Ronald M. Evans
    Elwood V. Jensen
    哺乳類の遺伝子解明に革命をもたらし、人間の遺伝疾患の直接治療(体細胞遺伝子治療)の希望を抱かせる、「遺伝子標的法」として知られる相同組み換え技術への貢献に対して
    Mario R. Capecchi
    Sir Martin Evans, FRS
    Oliver Smithies
    DNA指紋鑑定法の先駆的な発明と、法医学的分析や遺伝疾患、ヒトゲノムの変異についての医学的研究・理解にいたるまでの実用化に対して
    Sir Alec J. Jefferys, FRS

    以下では物理学賞のみに限って少し,上記予想を私的に検討してみたい.登場する氏名は,昨年までの予想に 登場した人を元にしている.
    • 「インフレーション宇宙モデル」は無理だろう.今年になってWMAPが宇宙背景輻射が インフレーションモデルと無矛盾であることをデータで示したが,まだNobel賞の 「実証可能な事実に贈賞」という精神には遠い.インフレーションモデルが受賞するならば, それより先に,宇宙背景輻射のCOBEかWMAPプロジェクトの方が実証的である. それにThomson ISI社の上記予想では, 提唱者の一人,佐藤勝彦が抜けている.論文の引用数は少ないが,佐藤が外された場合,日本人研究者は大きく クレームを出すことになろう.
    • ISI社は,昨年は「ストリング理論とM理論」のGreen-Schwartz-Wittenの 3人を組にした受賞を予想した.Nobel賞の 贈賞理念から言って,これも有り得ない.論文引用数だけの統計だと,最近素粒子・宇宙分野でM理論が流行していることが裏目に出て,誤った結論になってしまう良い例である.
    • ここ数年,物理学賞は実験・観測による「発見」に対して贈賞されていたが,2004年は理論,2005年は実験が贈賞対象であった.今年は理論の可能性もある. そうなると,「クォークは6種類である」と理論的に予言し,それが4年前に実験で確認された「小林・益川」理論のペアは,今年は狙えるかもしれない.
    • ブレークスルー的な発見を重視するなら 「青色ダイオード」の「中村」かもしれない.あるいは,「電子型銅酸化物超伝導体の発見」の「十倉」かもしれない.
    • 4年前がニュートリノだったので,「ニュートリノに質量」の「戸塚」はまだ尚早である.今年はないであろう.
    • 理論をサポートした「電子線ホログラフィーの開発とアハラノフ・ボーム効果の実証」で「外村・Aharonov」というペアも考えられる.

    今年の物理学賞の発表は10月3日である.


 
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今日のニュースから

  • 【宇宙物理】SOLAR-B打ち上げ成功,「ひので」と命名
    宇宙科学研究本部の3番目の太陽観測衛星として,SOLAR-Bと呼ばれていた衛星は,M-V-7号機によって日本時間2006年9月23日(土)6:36に打上げられ,軌道に乗ったことが確認された.衛星は「ひので」と命名された.

    「ようこう」衛星(SOLAR-A)の後継機として,口径50cmの大型可視光望遠鏡SOTと,X線望遠鏡XRT,極端紫外線撮像分光装置 EISを搭載し,太陽表面(光球面)とコロナを同時に観測することで,コロナが示すさまざまな活動現象の総合的な解明をめざす.

     SOTの超高空間分解能(0.2秒角)の観測を実現するため,軌道上での太陽光による熱入力の変化をできるだけおさえ,また,長期間の連続した太陽観測が行えるよう,SOLAR-Bは太陽同期極軌道をとる.地球の昼と夜の境目を飛ぶこの軌道をとることで,SOLAR-Bは1年のうち8ヶ月間,途切れることなく太陽を詳細に観測できるという.


 
2006/09/22 前回へ / 次回へ / ページ先頭へ
 

最近のニュースから

  • 【物理学史】Philosophical Transactions 350年分のアーカイブ
    イギリス王立協会(Royal Society)は,英語圏では初の査読付科学研究誌となった,Philosophical Transactions誌を,創刊号の1665年まで遡ってインターネット上でアクセス可能にする,と発表した.2006年12月から,雑誌の定期購読者に対してアクセス可能になる.

    Philosophical Transactions誌には,科学の広い分野にまたがって話題が提供されており,340年間のアーカイブには,約60000の論文があるという. 創刊した1665年には,Robert Boyle, "The Experimental History of Cold" [Phil Trans 1 (1665), 8]の論文があり,Newtonが望遠鏡内の光について論じた論文も,Isaac Newton, "New Theory about Light and Colors" [Phil Trans 6 (1671) 3075]としてあるという. 雑誌は,1887年には, Series A (Mathematics and Physical Sciences) と Series B (Biological Sciences) とに分割されている.

    アーカイブページでは, 著者の例として,次の名前が列挙されている.

    Bohr, Boyle, Bragg, Cajal, Cavendish, Chandrasekhar, Crick, Dalton, Darwin, Davy, Dirac, Faraday, Fermi, Fleming, Florey, Fox Talbot, Franklin, Halley, Hawking, Heisenberg, Herschel, Hodgkin, Hooke, Huxley, Joule, Kelvin, Krebs, Liebnitz, Linnaeus, Lister, Mantell, Marconi, Maxwell, Newton, Pauling, Pavlov, Pepys, Priestley, Raman, Rutherford, Schrodinger, Turing, van Leeuwenhoek, Volta, Watt, Wren
    Newton, Einstein and a monstrous calf 9/21 Physics News

 
2006/09/21 前回へ / 次回へ / ページ先頭へ
 

最近の論文から

  • 【重力物理】連星パルサーによる一般相対性理論の検証
    連星中性子星 PSR J0737-3039A/B を用いた一般相対性理論のテストが論文として報告された( M. Kramer et al, Science 313 (2006) 1556).この連星系は,2003年に著者らのグループによって 発見されたもので,2つの中性子星がどちらも電波源として特定できる(現在のところ)唯一の系である. 距離は地球から2000光年であり,連星の軌道周期は2.4時間で, Hulse-Taylorの連星よりも強い重力場を形成している.

    今回の報告では,2.5年のデータをもとにして,重力波放出に伴う連星軌道周期の変化, 相手の連星付近を通過することによる電波パルスの遅れ, 連星の質量比(1.07)などの5つのパラメータを求め,それらから アインシュタインの理論の予言から求められる, 軌道のKepler軌道からのズレを示すpost-Keplerianパラメータ s と比較した. その結果,sの観測値と理論値のズレは,0.05%以内になったという.これは,これまでに行われた連星系のテストの内でも最も精度が高い(と,論文のアブストラクトに書かれている).観測を続けることにより,将来的には現在の太陽系内よりも高い精度で重力理論の検証が可能になるという.

    PhysicsWebでは,一般相対性理論は,99.5%正しい,と結論しているが,99.95%ではないだろうか.

    Pulsars prove Einstein right (nearly) 9/21 PhysicsWeb


 
2006/09/20 前回へ / 次回へ / ページ先頭へ
 

最近のニュースから

  • 【大学教育】物理と天文の教材交換サイトcomPADRE
    アメリカ物理学会(APS, American Physical Society) の 重力物理グループ(Topical Group on Gravitation) が半年に一回発行しているMatters of Gravityの2006年秋号がプレプリントサーバgr-qc/0609045 に掲載された.一般相対性理論の研究会レポートを中心として,これまで14年間Pullin氏が編集役としてスタイルを築いてきたが,今回からGarfinkle氏とComer氏にバトンタッチしたようである.(年齢的には3者とも同世代だが).

    さて,今号では,一般の人にも面白いネタとして, 「Teaching General Relativity to Undergrads(一般相対性理論を学部学生に教える)」というComer氏による研究会レポートがあった.量子力学は,理学・工学の分野で広く教えられているのに対し,一般相対性理論はそのマイナーさ故に物理学科の学生のみに特権的に教えられてきたのは,どの国でも共通の事情である.ところが,最近アメリカでは,科学に興味を持たせる意味で,E=mc^2 という超有名な公式を含め,物理を専門としない学生や高校生に対しても相対性理論を教えよう,という動きが出てきているらしい.(もっとも,カーナビに実装されているGPSのソフトウェアには,一般相対性理論の式を使った補正が必要なので,一般相対性理論は既に日常生活に欠かせないものとなってはいるのだが).

    研究会自体は,7月20日-21日にSyracuse大学で開かれた.研究者と共に高校の先生も参加する形で,「重力波とLIGO干渉計」「Newton物理との違い」「GPS」「ブラックホール」などとテーマを絞ってレクチャーが行われ,教科書のスタイルも「物理が先で数学が後」型と「数学が先で物理が後」型に分けて議論が進められたらしい.

    今回の討論を元にして,一般相対性理論の教材をネット上にまとめて掲載する予定だそうで,ニュース記事では教材を募集している.相対性理論だけではなく,すでに物理・宇宙分野では,教材のサンプルをボランティアで(もちろん匿名ではないが)共有できるサイト comPADREがあり,そこに分野を加えるそうだ.

    comPADREは,Communities of Physics and Astronomy Digital Resources for Education (物理と天文教育のためのデジタル教材コミュニティ) の略らしいが,頑張って,compadre(親友)にこじつけた跡がアリアリ. 相対性理論以外の分野では,すでにいろいろ教材が置かれていて,レベルも目的もさまざまだが,クイズ形式で自動採点JavaScript付きウェブページなど,日本語に訳しただけで使えそうなものも結構ある.私も,物理専門ではない学生に,相対性理論を教える立場になったが,いつかはノウハウを蓄積して,ここに貢献してみたい.日本でもこのような教材交換サイトを推進しても面白いかもしれない.早速,天文教育普及研究会を見つけ,入会してしまった.


 
2006/09/12 前回へ / 次回へ / ページ先頭へ
 

最近の論文から

  • 【宇宙物理】GravLens Issue 8
    重力物理関係のプレプリントからいくつかの論文を紹介するGravitational Lens (PennState) の Issue 8 が掲載された.今回の内容は,以下の3つ.抄訳+原論文のabstract抄訳+まとめ.
    • 高次元でのブラックホール熱力学 [Thermodynamic Black Holes in All Dimensions]
      3+1次元でのブラックホールは,平衡状態に落ち着けば,エントロピーや熱力学第一法則のアナロジーが適用される「熱的な」性質を持つことが,1970年代からの研究で明らかにされている.ここでブラックホールの「温度」に相当するものは,ブラックホールの地平面での重力場であり,ブラックホールの対称性が軸対称に落ち着くように進化する証明(ブラックホール唯一性定理)の存在が,ブラックホール熱力学を保証していた.
      高次元宇宙の研究が進む現在,高次元でのブラックホール熱力学も注目を集めている.熱力学の第一法則をそのまま高次元に拡張することは比較的簡単であったが,「温度が予想外となるようなブラックホールが存在しない」証明がない限り,ブラックホール熱力学が保証されない状態であった.Waldらは,地平面がコンパクトで非縮退であり時空全体が解析的である,というだけの仮定のもと,高次元であっても「回転している定常ブラックホールは軸対称でなければならない」証明を与えた.これにより,高次元ブラックホール熱力学が安心して語られるようになる.

      Hollands, Ishibashi and Wald, A Higher Dimensional Stationary Rotating Black Hole Must be Axisymmetric - gr-qc 0605106

    • 中性子星-ブラックホール連星の合体シミュレーション [Mass Transfer Dynamics in Neutron Star-Black Hole Binaries]
      中性子星(NS, Neutron Star)-ブラックホール(BH, Black-hole)連星は,NS-NS連星やBH-BH連星系と共に重力波の波源として考えられていながらこれまで一般相対論的な効果を取り入れた解析がなかった. Shapiroらのグループは,初めての,摂動論ではない相対論的効果を取り入れたNS-BH連星の合体数値シミュレーションを行った,と報告している.相対論的効果はNSの潮汐力破壊に対して極めて重要であり,NSの潮汐力破壊が連星の最終円軌道(ISCO, Innermost stable circular orbit)の外側で生じる場合(連星の質量比が0.24以上)はNSは完全に破壊され,内側で生じる場合(質量比が0.24以下)はNSはブラックホールとその周りの熱的ディスク(hot disk)として一部が残ることを示している.後者の場合は(short-hardな)ガンマ線バーストの発生源として理想的な状態になる.重力波観測とガンマ線バースト観測の連携がこのモデルの正しさを決めるであろう.

      Faber, Baumgarte, Shapiro, Taniguchi and Rasio, Black Hole-Neutron Star Binary Merger Calculations: GRB Progenitors and the Stability of Mass Transfer - astro-ph 0605512

    • 重力定数Gの時間変化測定方法の提案 [Investigating when a constant is not a constant]
      重力定数Gの定数性に関しては,古生物学や星のモデル・初期宇宙の観測などにより10億年スケールでの変化に上限がつけられている.また,実験室レベルでは数10年スケールでの上限がつけられている.
      Jofreらは,新たに gravitochemical heating (重力化学熱化)と呼ぶ方法でGの定数性の検証ができることを提案した.中性子星の内部構造がGの変化により散逸と熱的進化が異なることになる,という話で,表面の温度の観測で可能になるという.中性子星の化学反応タイムスケールは,108年であり,他の方法の中間に位置する. 核反応がURCAモデルであれば,Gの変化の上限値観測は dG/dt*1/G < 2x10-10/yr 程度のレベル, Modified URCAモデルであれば, dG/dt*1/G < 4x10-12/yr 程度であるという.

      Jofre, Reisenegger and Fernandez, Constraining a possible time-variation of the gravitational constant through "gravitochemical heating" of neutron stars - astro-ph 0606708


 
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ニュースから

  • 【惑星科学】冥王星に小惑星番号(134340)
    惑星の座を追われ,「矮惑星」(dwarf planet:正式な訳語は未定)の代表となった冥王星に対し,国際天文学連合(IAU)の小惑星センター(MPC, Minor Planet Center)が小惑星番号(134340)を与えた.同時に,「矮惑星」2003 UB313に(136199),「矮惑星」の有力な候補である2003 EL61と2005 FY9にそれぞれ(136108)と(136472)を与えた.これらはあくまでも「小惑星番号」であり,「矮惑星」と「太陽系小天体」は異なるカテゴリーである.
    小惑星番号は欠番なく振られており,今回話題になった「セレス」は小惑星番号(1)である(セレスも矮惑星になった).1999年には,「冥王星を小惑星10000番にしたらどうか」という話も出たそうだが,時すでに遅し.

    元第9惑星・冥王星に,小惑星番号(134340)を付与−2003 UB313などにも 9/8 アストロアーツ
    9/7 MPEC 2006-R19 : EDITORIAL NOTICE


 
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最近のニュースから

  • 【宇宙物理】X線フラッシュと中性子星形成
    「ガンマ線バースト(GRB, Gamma-Ray burst)」とは,天球の一点が突然ガンマ線波長で明るく輝いて見える天体現象である.ガンマ線バーストは,宇宙の中で最もエネルギーの大きな爆発現象ともいわれ,その起源を超新星爆発(SN, Supernova)と関連づける観測データが,この数年蓄積されてきた.2003年には,GRB 030329と極超新星SN 2003dhとのスペクトルが一致し,また,SN 2002ap の観測から高速ジェットの証拠を示唆する偏光成分が発見され,高速ジェットを伴う重力崩壊型超新星モデルが提案されてきた.そして,超新星 SN 2003jd の観測で,これが高速ジェットを激しく噴出している爆発を横からみた姿である証拠を初めて発見し,極超新星の大部分は高速ジェットを伴うガンマ線バースト母天体であり,ジェットが我々に向いている場合にのみガンマ線バーストとして観測されるという予想を裏付けた(国立天文台プレスリリース 2003/06, 2005/05).質量が太陽の40倍以上の星が寿命を迎えて超新星爆発を起こした際に,ブラックホール形成と共に継続時間の長いGRBが発生することがモデルとして確立してきた.

    GRBに類似しているが,より低い光度でわずかなガンマ線しか放射しない現象である「X線フラッシュ(XRF, X-ray flash)」現象も知られている.XRFもSNと関係しているのか,またそれらが本当に「弱い」現象であるのか,あるいは典型的な GRBをバーストの軸方向から外れた方向から観測した現象であるのかどうかは,明らかではなかった.今週,Natureに掲載された4本の論文は,今年2月に観測された GRB 060218 の観測結果と,その超新星(Ic型) SN 2006aj との関連について報告である(8/31 時事通信).以下,Natureの日本語概要を抜粋.

    • [1] S. Campana et al, Nature 442, 1008-1010 (31 August 2006)
      GRB 060218は,古典的な非熱的放射に加えて,X線スペクトルには熱的成分がみられる.この成分は時間とともに冷却され,可視光/紫外線帯へとシフトする.これらの特徴は,突発的に発生した衝撃波が,中程度に相対論的なシェルによって,母天体を取り巻く高密度なウィンド中へ押しやられることで生じると考えられる.我々は,まさに爆発する瞬間の超新星をとらえ,衝撃波の突発的発生を直接的に観測した.この結果は,GRBの母天体がウォルフ・ライエ星であったことを示している.
    • [2] E. Pian at al, Nature 442, 1011-1013 (31 August 2006)
      超新星2006ajは,GRBに付随した従来の超新星よりも低い光度をもつが,GRBを伴わない多くの超新星よりは明るい.電波とX線での観測結果を組み合わせると,我々のデータは,XRF 060218が本当に弱く低エネルギーの現象であって,古典的なGRBをバーストの軸方向から外れた方向から観測したものではないことを示唆している.これは,GRBと超新星の結びつきが,X線フラッシュとさらに暗い超新星との結びつきにまで拡張され,どちらも超新星が起源であることを意味している. XRF 060218のような現象は,通常のGRBよりもおそらく非常に多く存在するだろう.
    • [3] A. M. Soderberg et al, Nature 442, 1014-1017 (31 August 2006)
      GRBやXRFの電磁気的な光度は,通常のIbc型超新星のものより何桁も大きいが,これらの発生メカニズムは明らかではない.XRF 060218 を電波およびX線で観測した結果,この現象が宇宙論的なGRBの100分の1のエネルギーしかもたないが,10倍の頻度で発生することが示された.さらにXRF 060218は,中程度に相対論的な放出物の運ぶ10^{48} ergのエネルギーと,爆発後数週間にわたってX線を生成する中心動力源(降着を受けて高速で自転するコンパクトX線源)の存在によって,通常のIbc型超新星と区別される.これは,相対論的な放出物の生成が,GRBあるいはXRFと通常の超新星との重要な物理学的相異であることを示唆する.また,非対称なGRBと球対称なXRFとは中心部の動力源(ブラックホールまたはマグネター)の性質によって区別される可能性を示唆する.
    • [4] P.A. Mazzali et al, Nature 442, 1018-1020 (31 August 2006)
      SN 2006ajのスペクトルと光度曲線のモデルを構築した結果,SN 2006ajがほかのGRBに付随した従来の超新星より非常に小さい爆発エネルギーしかもたず,放出物質の質量もずっと小さかったことを示された.初期質量は太陽質量の約20倍の星であると考えられるので,ブラックホールではなく中性子星が形成されると考えられる.この結果は,超新星とGRBの結びつきがこれまで考えられていたよりもはるかに広い質量範囲の星にわたっていることを示しており,おそらく異なる物理メカニズム,すなわちブラックホールになる大質量星については「コラプサー」,また小質量星については,誕生したばかりの中性子星の磁気活動がかかわっていると考えられる.
    超新星爆発により,ブラックホールになるほど大きなものはGRBを発生させ,中性子星になるものでもXRFを発生させる,と覚えておこう.自分でも知らない分野だったので,記事が長くなってしまった.

 
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最近のニュースから

  • 【宇宙物理】星間ガスの重水素D存在比
    標準ビッグバン宇宙モデルの決定的な証拠の1つとしてヘリウムや重水素(Deuterium)などの軽元素存在比が理論値と整合する事実がある.重水素は宇宙初期で作られ,その後,恒星内の核融合反応で消費されてゆく運命にある. ビッグバン直後に作られた重水素の割合は、水素原子100万個あたり27個程度(27ppm)であり,我が銀河では現在までにその30%以上が失われている計算になる.

    ところが,我が銀河系内では重水素量が 5-22 ppmであることが知られており,理論値よりも低すぎた.そこで,重水素は水素に比べて,星間物質に含まれるちりの粒と結びつきやすいのではないか,と理論的に予想されていた.

    重水素は遠紫外線領域の電磁波を放射することから,1970年代のコペルニクス衛星に続き,最近のFUSE (Far Ultraviolet Spectroscopic Explorer)衛星を用いて詳細な観測が行われた結果,この予想通り,星間物質のちりの多いところでは重水素の量が低いことが確かめられた.しかし同時に,重水素の量そのものが,宇宙初期の量に比べて現在までに15%以下しか減少していないことも報告された.

    可能性は2つ考えられている.恒星に取り込まれてしまう重水素の量が従来の予想を下回っていたか,銀河の歴史を通じて外部から「新鮮な」ガスが予想以上に供給されたか.どちらにしても,しばらく銀河の化学進化研究は面白そうである.

    NASA FUSE Satellite Solves the Case of the Missing Deuterium 8/14 NASA
    Hidden hydrogen could force galaxy rethink 8/30 Physics Web
    137億年を生き延びた原子が、天の川銀河の歴史を語る 8/22 AstroArts
    J.L. Linsky et al, Astrophys. J., 647 (2006 August 20) 1106

2006年8月以前の分はここ


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